2014/02/15
日本のおもてなしを考える(山梨・HK)
日本のおもてなしを考える
▼焼鳥屋と思われる店の前をいつも仕事帰りに通りかかる。歩道に面した一画で、店主と思しき親父
さんが一心不乱に木串に刺した生肉を焼く姿をいつも目にする。ガラス越しに、脂身に移った炎が踊
り、白煙が舞い上がるさまに加えて、周辺に漂ってくる香ばしい匂いに誘われて、ついつい暖簾をく
ぐりたくなる。この演出が功を奏してか、店内は老若男女の酔客で常に賑わっている
▼また、うなぎ屋はその香りで誘客するとの話を聞いたことがある。江戸小咄には、けちな男が飯時
になるとうなぎ屋の前に来て、匂いだけかいでそれをおかずにしていたというものもある
▼近頃は香りでお客をもてなすデパートもあるとの報道を目にした。昨今の流行語にもなっている
『おもてなし』。6年後の東京オリンピックに海外から訪れる選手団や観光客に「また来てみたい」
と感じさせることが肝要だ
▼おもてなし―というと、思い浮かぶのは茶道に由来する「一期一会」の言葉。二度と巡って来ない
たった一度の出会いを大切にし、最高のおもてなしをとの意味。かの千利休もその教えのなかで、自
分が求める理想のお茶ではなく、相手が今欲している温度や量のお茶を点てる―などの持て成しの心
が記されている
▼十人十色と言われるように、人それぞれ嗜好は異なる。99人に喜ばれても残る1人の好みに合うと
は限らない。超人口過密都市となっていた江戸には、商人を中心に生まれた「江戸しぐさ」なる粋な
文化が日本にはあった。求められる前に相手をおもんぱかる心。オリンピック開催時には、良き伝統
と習わしが、十分に発揮されることを望みたい。(山梨・HK)