コラム

2014/04/18

片手に納まる一服の清涼剤(山梨・HK)

片手に納まる一服の清涼剤


▼読書が唯一の楽しみと言い切る友人がいる。運転中の信号待ちや入浴中など寸暇を惜しんで小説を

読み漁っている。図書館から借りた本を風呂場で濡らしてしまい、弁償したことも一度や二度ではな

いらしい


▼ありがたいことに、彼は、これは面白いと感じた一品を「読む読まないはお好きなように。とりあ

えず置いていきます」とのメッセージ付きで筆者の自宅ポストに配達してくれる。最近は、初めて手

にした時代小説にすっかり魅せられたようで、「朝までノンストップ」と断言する池波正太郎著『剣

客商売』シリーズが届けられていた


▼ときは江戸中期。老中として幕府の実権を握っていた田沼意次の時代に、剣客として名を馳せる秋

山親子が悪を懲らしめる痛快時代劇である。日本人好みともいえる勧善懲悪のストーリーに加え、現

代から当時を覗き込むような作風に、食をはじめとする人々の暮らしぶりのスパイスが織り交ぜられ

た池波氏の巧みな筆さばきは、江戸時代の緩やかな時間の流れと相まって、独特な世界観が創り上げ

られている


▼日本では高度成長期以前はスローライフなる生き方や暮らし方にスポットが当てられた時期があっ

たといわれるが、江戸時代にこそ華やかな文化や粋な暮らしぶりが生まれ、成長し浸透してスローラ

イフ花盛りであったのではないかと、読書後に更に強く感じた


▼ゆっくりと流れる大河のように小説の中の世界が実に心を和ませ、時間に追われている実生活に一

服の清涼剤のごとく安らぎを与えてくれる。片手に収まる文庫本、いや清涼剤。お安いものです。手

にとってはいかがですか。(山梨・HK)


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