コラム

2014/05/17

風を感じたひととき(新潟・CY)

風を感じたひととき


▼新潟市の旧庄屋の囲炉裏端で、ある座談会が開かれた。ドキュメンタリー映画「阿賀に生きる」と

写真集「?角海浜(かくみはま)?物語」のクロストーク。映画関係者や写真家らが村人の暮らしぶ

りを語った。阿賀は阿賀野川沿いの山と川筋の村で新潟水俣病で知られる


▼角海浜は廃村から40年。三方を山に囲まれた海辺の村。街に行くには山越えを強いられ、早朝に歩

いて魚売りに来たと祖母から聞いた。漁には適さない地形で、大工や船大工を生業としていた。両村

とも暮らしは貧しかったという


▼昭和30年代、新潟では各地で土地改良が進み、水害や胸まで泥水に浸かっての農作業から解放され

たが、水が激減し井戸が枯渇した角海には大打撃をもたらした。その後、原発計画が浮上し離村は進

んだ。高度成長期、どこにでもあった開発の縮図ではある。しかし、座談会で浮き上がったのは意外

にも豊かな村の姿だった


▼豊かな暮らしを望まなかった老人たちは淡々と生きた。明治になって女性の旅行制限が撤廃される

と「毒消し」売りで財を成す。各地を巡って見識を深め「これからは教育だ」と周囲の町に先駆けて

大卒者を多く輩出。「原発計画で意外にもすんなりと離村を決意していったように感じた」と写真家

は語った


▼土木工学の大熊孝新大名誉教授は「土木工事は機能は果たしたが新しい文化は何も生まなかった」

との発言が耳に残った。「これまでに数千人の学生をみてきたが近頃は意識の高さに驚かされる」と

も指摘した。会場には、すたれ忘れかけた人々の営みをつかもうとする若者が目立った。人不足の昨

今、気概という新しい風を感じるひとときだった。(新潟・CY)


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