コラム

2014/08/27

仮面をかぶせた心遣い(群馬・KS)

仮面をかぶせた心遣い


▼友人の結婚式参列のため久しぶりに電車に乗った。都内の蒸し暑さや大量の荷物に疲れ果て、帰りの電車内で手荷物を脇に置いてひと息ついたが、次の駅で乗客が来たため、とっさにどけた。すると「その荷物は汚れているんじゃないの、大丈夫?」と、けげんそうな目を向けてこちらを見下ろす中年男性が立っていた。しばし言葉に詰まったが「はい、大丈夫だと思います」と返答すると、その男性は疑惑の視線を鋭く注ぎながらも、満足そうに隣の席に収まるという珍事があった


▼確かに暑い日差しの中、歩き疲れて汗だくだったためか、引き出物を引きずって歩いていたかのように錯覚したのだろう。疲れた体に心ない質問がぐさりと刺さり、一層の疲労感を漂わせながらの家路となった


▼『電車では荷物を膝の上に置きましょう』という小学生でも知っている暗黙の車内ルールを破ってしまったのは事実。恥ずかしながら三十路を手前に注意されても仕方がないと自戒するものの、『言い方は1つとは限らない。逆もしかり、とらえ方も1つとは限らない』と心の中で叫んだ


▼発着時刻ピッタリに運転する電車、構内の分かりやすい案内図、老人、子ども、妊婦を気遣う優先席の存在などが通常の光景である日本の鉄道。公共の場ではさまざまなことに気を使い、誰もが気分良く過ごせるようにという日本人らしい『心遣い』は美しいとは思うものの、それを盾にした物言いは暴言に近い


▼表現豊かな日本語の使い手、あるいは、遠回しな表現が根強いお国柄だからこそ、心遣いに仮面をかぶせた言い方は、時に人の心を深く傷つけることもあると、あらためて思い知った。(群馬・KS)


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