コラム

2015/07/24

酒中別人ではいられまい(埼玉・AO)

酒中別人ではいられまい


▼じめじめした梅雨がようやく明けた。健康的な暑い日々が到来した。暑気払いという言葉がぴったりくる真夏だが、お酒の席は、ご用心。仕事や人間関係に馴れてきた新人さんたちは、特に気をつけたい。昔から酒盛りでの失敗は多い


▼小説の三国志にも多くの逸話が描かれている。涪水関(ふすいかん)を奪取した際の劉備(りゅうび)と龐統(ほうとう)のやり取りには注目すべき点がある。「酒を飲みつつ一城を奪ったようなものだ」と愉快に話す劉備に対し、龐統は「人の国を奪って楽しみとするは、仁者の兵にあらず、あなたらしくもない」。反して劉備は「武王は紂(ちゅう)を討って、初めに歌い、後に舞ったという。武王の兵は、仁義の兵でなかったか。ばか者っ、退け」と怒った


▼酔いが覚めた劉備は、衣を正し、辞を低くし「今暁の無礼は酔中の不覚、ゆるしてください」。龐統は黙っていたが、玄徳が重ねてわびると「君臣ともに、酔中の浮魚(ふぎょ)。戯歌水游(ぎかすいゆう)、みな酒中のこと。酒中別人です、わたくしの皮肉もお気にかけて下さるな」と、ともども手打ちして朗らかに笑ったという


▼吉川英治の三国志に出てくるくだり。龐統は諸葛亮とともに臥龍鳳雛(がりょうほうすう)と称される軍師だが、劉備との関係では諸葛亮には及ばないと思っていた節がある。人間模様ではないが、そんなこともあって皮肉の一つも出てきたのではないか。劉備は酔った席での言葉と謝り、酔った席のことだと応じる龐統。酒中別人なのだと


▼いまの世の中で、そのようなことがあった場合、どうなるだろう。劉備は言わば社長。龐統のような得難い人材ならまだしも、目下の人間に盾突かれたらどう思うか。酒中別人とはいられまい。(埼玉・AO)


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