コラム

2015/11/11

賛否を語る前に(新潟・CY)

賛否を語る前に


▼子どもと保育園とのやり取りで頼りになるのが連絡帳。時に言葉の行き違いが生じる。3歳児に尋ねるも混乱は深まるばかり。要領を得ないだけならまだしも、まことしやかに「先生がこう言っていたよ」ということもある。気まぐれな作り話と決めてかかれば、事実だったりするから気が抜けない


▼先日、手塚治虫の5つの短編を収録した『時計仕掛けのりんご(秋田文庫)』を読み返した。人間の闇がぞっとするような切り口で描かれているが、内容は譲るとして、ここでは巻末の今江祥智さんの解説に触れたい。中学教師だった今江さんは担任するクラスの本棚に『リボンの騎士』『ぼくの孫悟空』などを置き、問題になった。「神聖な教室にマンガ本を入れるとは何事か、とPTAのお母様方が柳眉を逆立てられたのである。お読みでしょうか? と私はお訊きし、誰も読んでおられないことを知って全冊お貸しし、お読みいただくようお願いした」


▼一週間過ぎても反発や非難の電話はない。保護者の一人に尋ねれば、面白いから回し読みしているという。以来、新作が大手を振って並んだ


▼昨今のパクリ騒動では、インターネットを中心に批判が飛び火した。一見パクリのようで、実は元になる作品のパロディやオマージュというものも多々あった。無記名の批判はたやすいが、ともすると無知を晒し、ぬれぎぬの加害者になるかもしれない。そして誰も責任を取らない


▼先の保護者や生徒たちが手塚漫画に触れたことの意味を思う。先入観に縛られるのはもったいない。実際に読んだのか。観たのか。背景は。文脈は。賛否を語るのはそれからだ。(新潟・CY)


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