コラム

2016/01/27

ヘルメット越しの目(新潟・CY)

ヘルメット越しの目


▼「あ、クレーンだ!」。娘の一言だった。蛇行する川の向こうに3機がそびえ立つ。ポンプ場工事の大型案件だ。そういえば防音壁にこどもたちの絵を飾っていると聞いた。軽い気持ちで現場を目指した


▼想像よりはるかに細い道を進む。たどり着いて息を呑んだ。目と鼻の先にびっしりと民家が連なる。こんな場所に重機を入れたのか。対岸からは、ある程度の広さがありそうに見えたのに


▼グーグルアースで検索すると、工事の開幕戦を見ることができた。住宅密集地であるのに加え、最寄りの幹線道路はバス路線。平行して新たにバイパスが開通したが、交通量が多くて有名だ。相当のコミュニケーション能力を要し、神経をつかったに違いない


▼縁あって岡本太郎の「明日の神話」の搬入に立ち会ったことを思い出す。5・5×30mの巨大壁画で、長くメキシコで行方不明になっていた。巨大さゆえ、日本への輸送手段が問題となり、いくつかに解体して運ばれた。経年劣化による損傷も、輸送時にやむなく落ちた小さな破片も、考古学の手法を用いて一つ残らず修復されたという。極めて長い時間をかけて、補強されたといっても絵画作品。展示の際、わずかな揺れや回転も許されない。鮮やかに並べたのはカニクレーンだ。総指揮を執る男性のヘルメット越しの目を見た。ぞくっとした。職人は明らかに楽しんでいた


▼翻ってポンプ場。あの困難な現場にも、同じ目があった。舞台は閉じられた展示室ではなく、生活の場だ。きっと、こんな現場が無数にある。娘をよそに、誇らしいような、すがすがしいような、不思議な気持ちになった。(新潟・CY)


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