コラム

2016/02/05

美しく、油断していた(水戸・EM)

美しく、油断していた


▼休日は銭湯へ行くのが楽しみになっている。土日入浴料金大人670円。さまざまな風呂を備えた、いわゆるスーパー銭湯で、低周波が体を刺激する電気風呂、水流で全身をほぐすジェットバス、炭酸ガスが溶け込んだ高濃度人工炭酸泉は毛細血管の活性化を促すと解説があった


▼露天風呂は日替わりで香り付けされる。リラックス効果のあるラベンダー、さわやかに甘い青リンゴ。8(や)・9(く)・10(とう)の付く日は漢方薬湯と洒落も効いている。由布院や草津といった名湯を模した成分の湯でもてなしてくれることもある


▼サウナは一般的なスタジアム型のほか、塩を擦り込みつつ入る塩サウナもある。塩の刺激が心地良い。通常に比べ低温で、テレビも備えてあるから飽きずに長居できる


▼先日、塩サウナに入り、見るともなくテレビを眺めていると、朝鮮民主主義人民共和国が水爆実験に成功したと発表したことを報じていた。詩人・石垣りんが原爆の写真に寄せた詩「挨拶」の最後の1行が頭を巡る。「やすらかに/美しく/油断していた」。銭湯で戦闘。あまりにも無防備で、それゆえの衝撃


▼りんさん、私はまた油断していました。自堕落に過ごした休日の終わり、重い腰を上げ銭湯へ出向き、のうのうと体に塩をまぶし、その最中、あ、と思い出しました。わたしたちは相も変わらず生と死のきわどい淵を歩いていることを。あの詩に、かくも美しく研ぎ澄まされた警鐘に、ひどく心打たれたはずなのに。戦争、テロ、天災。命を守るために鳴らすべき鐘の音。今書かなければいけないのは、スーパー銭湯のことなんかじゃない。(茨城・EM)


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