2016/04/28
なでしこの夢再び(山梨・HK)
なでしこの夢再び
▼「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。……」言うに及ばず平家物語の冒頭である。全てのものが常に変化し、盛んなものも必ず衰えると、栄華を極めた平家の滅亡を描いている
▼なでしこジャパンがリオデジャネイロオリンピックへの道を絶たれた。これまでオリンピックは3大会連続で出場し、2011年W杯ドイツ大会優勝をはじめとする輝かしい戦績を残し、アジアでの予選突破は既定事実であるかに思えた中で、だ。監督との軋轢(あつれき)、選手間の不協和音などさまざまな要因が取り沙汰された
▼とりわけプレーに限らず精神的支柱でもあった澤穂希選手の抜けた穴は、予想以上に大きかったと感じざるを得ない。キャプテンとしてその重責を一身に背負った宮間あや選手の負担は他人には計り知れないほど大きものだったのだろう
▼宮間選手で印象に残るのは、前述のW杯決勝。アメリカとのPK戦で決着がついた瞬間、ハーフウェイラインで見守っていたなでしこは皆、ゴールキーパーの元へ駆け寄った。その中で一人、対戦相手であるアメリカ選手の元へ歩を進めた彼女をカメラは捉えている
▼かつてチームメイトとしてプレー経験がある仲間がいたこともあろうが、相手がいてこその試合であり、彼女たちに対するリスペクトを体現したといえる。「苦しいときには私の背中を見て」と言えた澤選手の後継者への道のりは計り知れない。しかし、相手を敬う心根を持つ彼女である。没落の憂き目を見た平家とは違い、覚めることのないなでしこの春の夜の夢を再び描き、風の前の塵(ちり)もやがて山と成す日がくると信じている。(山梨・HK)