コラム

2016/12/06

宛所のない手紙(新潟・CY)

宛所のない手紙


▼「こちらにTさんはいらっしゃいますか?」。郵便配達員がやってきて、こう尋ねた。支局が入居するビルには複数のテナントが入っている。手にした封筒に住所と氏名は記されていたが、肝心の社名が欠いていた


▼子ども向けのテレビ番組に「不思議なポスト」というのがあった。登場人物たちが赤ずきんちゃんに手紙を出す。「オオカミがおばあちゃんに化けているよ!」。しばらくすると返事が来た。「おかげでオオカミをやっつけました。おばあちゃんも元気です」。桃太郎には「家来にしてください」と送る。きび団子と手紙が届き「早速だけど、鬼退治よろしく」。突如鬼がドアから入ってくる。逃げ惑っていると「ちゃんと退治しろよ」と鬼に説教される。不思議なポストは名前だけでも届くらしい


▼送ったものが戻ってこないか、と心配になるのが現場事務所だ。番地まで分かればいいが、工事名と事務所名のみだと、どうにも心もとない。寒空の下、配達員は施工途中の道なき道で迷ってしまうのではないか、いや大掛かりな工事だから場所の見当はつくはず…。大丈夫だと言われても、あれこれと考えてしまう


▼機械処理でははじかれたであろう現場事務所宛ての封筒は、しっかり届いた。一室一室を訪ねていたあの配達員も、Tさんを探し当てただろうか。「無事に届いて当たり前」を支える気遣いの数々がある。工事もまたしかり


▼人工知能の台頭で、将来5割近い職種が消滅するという試算もある。だが、やはり最後は人の力。物流のプロと道づくりのプロ、双方の結節点が、山あいの現場にふと立ち現れたような気がした。(新潟・CY)


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