コラム

2017/10/26

最期はいい笑顔で(群馬・OS)

最期はいい笑顔で


▼日本在宅ホスピス協会会長、小笠原文雄氏の著書『なんとめでたいご臨終』には、死を間近に控えた人々の思いがつづられている。そのほとんどが末期がんの患者。抗がん剤の副作用で満足な生活ができないながらも病院で延命を望むか、延命治療はせず在宅で最期まで充実した生活を送るか。著書には後者を選んだ人々が、その時を迎えるまで精いっぱい生きた姿が記されている


▼もう一度旅行に行きたい。畑仕事に出たい。好きな酒を思い切り飲みたい。苦しい抗がん剤治療で少しばかり長生きするより、残された時間を好きなように過ごす。そこには闘病というものとは違う、生き生きと人生を全うする姿があった


▼患者の一人に建築士がいた。抗がん剤を使えば1カ月延命することができるが副作用で仕事はできなくなる。建築士は新しい仕事を請け負ったばかり。やりたい。どうしてもやり遂げたい。悩んだ末、延命治療をしないことを決断した


▼その仕事には半年はかかる。余命は3カ月。間に合わないかもしれないとの不安を胸に懸命に仕事に励む。余命を2カ月過ぎ、ベッドから離れられる時間が日に日に少なくなる中、ついに仕事を完成させた。最後の写真は笑顔でピースサイン。命を懸けて挑み、成し遂げた満足感にあふれていた


▼後世まで残るもの。たくさんの人が集い、時に思い出を刻むもの。ものづくりに生涯を懸けた仕事人が最期に思い浮かべるのは、自らが造り上げた数々の作品か。あの道。あの橋。あの建物。制作当時の苦労や達成感がよみがえり、残された時間を彩る。誰しも旅立ちは満足感に包まれていたいものだ。(群馬・OS)


厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら