コラム

2018/12/14

二つのレコード(新潟・CY)

二つのレコード


▼意を決して開かずの間の大掃除を始めた。見て見ぬふりをしてきたものの筆頭に大量のMD(ミニディスク)がある。平成初期の発売から約20年で生産終了となった。カセットテープやアナログのレコード盤は再ブームが訪れ過熱しているが、MDの再ブームはありやなしや


▼レコードといえば、衝撃的な出会いが2つある。一つは、氷でできたレコードだ。アーティストの八木良太さんの作品で、針を落とせば思いのほかクリアな音が楽しめる。やがて溶けて音が鈍くなり、跡形もなくなってしまう


▼もう一つは肋骨(ろっこつ)レコード。スターリン政権下のソビエト連邦で、禁じられた音楽や地下出版物が流通した。ジャズやロックの音源を使用済みのレントゲンフィルムに刻み込んだもので、誰かの骨が写っている。一曲聞かせてもらった。日本人女性の声でルンバ調。声の主は淡谷のり子さんだった。たまに雑音が入るが、歌詞もしっかり聞き取れた


▼当時のソ連当局に見つかれば禁固刑か収容所で強制労働。何もかも棒に振ってでも聞きたい。その渇望を想像してみる。さらに手に入るもので作ってみせるぞという執念がすごい。ディスクもプレスするのではなく、蓄音機を改造し、回転を利用して溝を刻んでいた。何かにつけて機材や費用を理由に諦めがちなわが身の基準としたいところだ


▼苦渋の決断で9割ほどのMDを処分した。プレイヤーの寿命が怪しいが、ラジオの録音と、海外の音源や友人が編集してくれたものを残した。便利なこのご時世、いつでも手に入るものが多いからこそ、価値が高まるものもあり、それと知らずに失ったものもある。(新潟・CY)


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