コラム

2019/05/31

超芸術トマソンの魅力(群馬・YT)

超芸術トマソンの魅力


▼長年の運動不足を解消しようと近所を歩いていると不思議な光景が目に入った。屋外から屋内に向かって階段が設置されているが、向かう先はただの壁。家の増築などを行った際に利用しなくなり、そのまま残っているのだろうか。まったく意味をなさないものがそのまま残る光景に思わず首をかしげた


▼帰宅後に調べると、こうした光景を超芸術トマソンと呼ぶことが分かった。芸術上の概念で「不動産にまつわる芸術のように保存された無用の長物」と定義されている。建築物だけでなく橋なども対象となる。作家で美術家の赤瀬川原平(あかせがわげんぺい)などが名付けたもので、成績不振でも4番打者であり続けた1980年代の野球選手が元となったとのこと


▼上った先が壁の階段、塗り固められて使えない入口など日常から取り残されたような風景にどこか心引かれる。かつては活躍していたであろうものが時代の移り変わりによって無用になり、それでも今に残り続けていることが最大の魅力だ


▼取材をする際に感じるのは建設に関わる多くの人の熱意。完成後に利用者の話を聞くと、設計から工事まで全ての面で利用者のことを考えて工事してもらって感動したという声を聞くことも多い。トマソンへ魅力を感じるのは、全ての建築物に熱意が込められていることを肌で感じているからかもしれない


▼本来の役割を果たすことができなくなってしまったものでも、見直すことで新たな役割を果たすことができる。別の視点を持たなければ見つけることができない魅力だ。何かと息苦しいことが続く昨今、見慣れたものを別の角度で見直す余裕が必要なのではないか。(群馬・YT)


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