コラム

2019/05/22

自分の人生を歩む男たち(茨城・MK)

自分の人生を歩む男たち


▼春のこの時期にどうかとも思ったが、『プロ野球戦力外通告の衝撃と決断』(美山和也著、宝島社)を読んだ。戦力外を宣告された選手の〝その後〟を描いている


▼日米8球団を経験、5回もの戦力外通告を受けたベテラン投手。波乱に富んだ野球人生に見えるが、本人は「野球が好きなだけ」。必要とされれば移籍し、自分の働き場所を探す。「野球をして、チャレンジをして本当に良かったと思える野球人になる」。戦力外という悲壮感はない


▼同じ球団に19年間所属し、突然の宣告を受けた代打の仕事人。引退後、コーチ留学でアメリカへ。しかし言葉が通じず選手から相手にされない。必死に打開策を考える。あいさつから覚え、最初に教えた選手が結果を出したことで評価が激変。「コーチに必要なのは選手の中に溶け込む術」だと気付いた


▼ノーヒットノーランも達成した左腕が、戦力外通告、2度の手術後に選んだのは〝ドロップアウト〟してしまった若者たちのチーム、NPO法人の野球監督だった。一般社会への復帰に立ち向かう彼らを根気強く指導し、前へ進む。野球を頑張れば道を切り開ける。そういう思いが支えている


▼戦力外とされた男たちが復帰を懸けて挑むのがトライアウト。注目しているファンも多い。同書では忘れられない元選手が紹介されている。不合格となったその男は、待ち構えていたファンからの「サインを」の申し出を断る。「ゴメン。今はどの球団にも所属していないから、選手じゃないんだ。だから、サインはできないんだ」。そんな決まりはない。「でもね、握手しようよ」。生きざまがそうさせたのだろう。(茨城・MK)


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