コラム

2019/08/24

千年以上の時を経て(群馬・YY)

千年以上の時を経て


▼令和への改元から3カ月が経過した。当初は目にするたびに違和感を覚えた書類中の「令和元年」の文字にも徐々に慣れてきた。典拠を万葉集に求めた新元号は、4月1日の発表から話題を呼び、解説書など関連書籍の売り上げが爆発的に伸びたという


▼万葉集は7世紀後半から8世紀後半にかけて編さんされた現存最古の和歌集。全20巻から成り、約4500首もの歌が収められている。作者は天皇や貴族から、農民、辺境警備の任に当たっていた防人(さきもり)など多岐にわたる。また、都であった京から遠く離れた地域で詠まれた歌も網羅している


▼中でも東歌(あずまうた)の名を持つ14巻は東国(現在の静岡県以東の地方を指す)の歌を中心に収録。大半は庶民が詠んだもので、その全てが詠み人知らずの作者不明となっている。方言も多用されており、他巻に比べ独自性が強く、当時の地方文化を伝える史料としても希少性が高い


▼同巻に上野国(こうずけのくに)(現在の群馬県)で詠われた「上野伊奈良の沼の大藺草(おおいぐさ)外に見しよは今こそまされ」がある。意中の女性を大藺草(カヤツリグサ科の多年草であるフトイの古名)になぞらえた歌だ。歌の中にある伊奈良の沼は群馬県板倉町にある雷電沼とされている。かつては板倉沼と呼ばれ、広大な面積を誇ったが、1970~80年代の埋め立てで大部分が農地や工業地となった


▼1000年以上の時を経て、沼辺も青々とした稲が風にそよぐ水田へと変貌を遂げた。大藺草も稲には劣るが、秋に黄褐色の小穂を付けるそうだ。近づく実りの時期を控え、この風景を万葉の時代の歌人が見たなら、どのような歌を詠むかと想像した。(群馬・YY)


厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら