コラム

2020/01/11

解体するのは建物だけか(埼玉・YM)

解体するのは建物だけか


▼都内最古の木造駅舎と言われるJR原宿駅が、東京五輪後に解体される。大正時代から続く、歴史ある建物だけに保存を望む声が各方面から挙がっている。「安全面を考慮した」などさまざまな話を耳にするが、歴史的な財産がまた一つ消えていくことは残念でならない


▼葛西臨海水族園に建て替え計画が浮上していることをご存じだろうか。谷口吉生(よしお)が設計した同園は、現在までに累計5500万人以上が来園。水族館ブームの先駆的役割を果たした日本屈指の名建築と言って過言ではない。しかし、東京都は老朽化を理由に建て替え計画を進めている。解体するのは果たして「建物」だけなのか


▼直近では国立競技場や築地市場といった近代を語る上で欠かせない建築物が次々と建て替えられた。建物には人々の思い出とにぎわい、先人たちの知恵・熱意などが数多く積み重なっていた。それらはお金には換算できない財産だ。老朽化したからといって、安易な建て替えは控えるべきだ


▼技術が目覚ましく進歩する現代で、なぜ建物の長寿命化を図れないのか。建て替えればお金が動き、経済が活発化する。しかし同時に多くの人の共有財産を奪うことにもなる。目先の利益だけを追うと、街が死んでいく。持続的繁栄を遂げるには、中長期的な視点に立ち、多くの人によるにぎわいを生む必要がある


▼奈良県の法隆寺を「古いから建て替えよう」と言う人はいない。どんな建物も手入れしながら時を経れば価値が高まる。その価値が地域を観光地にし、多くのにぎわいをもたらす。現代建築の価値を高めることが現代人の使命だ。決して解体ではない。(埼玉・YM)


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