コラム

2020/09/29

目指すべき進路は(埼玉・YF)

目指すべき進路は


▼中部地方の国立工業高専に在学中、所属していた土木系学科内でピカイチに成績が良かったA君という学生がいた。テストの点数はいつもトップ。授業中に講師から問われた難問に、何やら見知らぬ数式を黒板いっぱいに書き連ねて正答するという、秀才ぶりだった


▼高専―高等専門学校は基本的に5年制、建設・情報などの工学や、商船などの専門知識と技術を学ぶ高等教育機関だ。早くから専門的な内容を勉強できるため「就職に強い」との呼び声がある。自分はというと、そういった評判を聞いて「何か手に職を」と、特に明確な目的を持たずに入学したクチだ


▼4年生の後半には、進路を意識する時期になる。大半は就職の道を選ぶが、それに引けをとらず大学に編入したり、より上位の学科に進む学生がいる。A君は当然、進学してさらなる学問探究の道を歩むものと、周囲は思っていた


▼ところが彼が選んだのは地元企業への就職。同級生が驚いただけでなく、教職員が残念がるほどの波紋を呼んだ。A君曰く「最初から、やりたいことがあったから」という理由。彼の勉学も、そのためのものだったのだ


▼進路を決めるとき、「やりたいこと」ではなく「手持ちの才能や資格を生かせるもの」という人は多いのではないか。「手段と目的を取り違えてはいけない」とはよく聞く話だが、実践は難しい。A君のような人間には、将来というほの暗い道のりの中にも、進むべき一条の光が見えているのだろう。常に暗中模索する自分にとって幸運だったのは、暗闇の中でも、彼のような人物の足跡を垣間見れたことだ。(埼玉・YF)

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