コラム

2021/03/05

心が言葉をつくる(群馬・TH)

心が言葉をつくる


▼高校時代に同じクラスだった宮野君と久しぶりに話をした。当時から特別に親しかったわけではないが、共通の友人が結婚するとのことで、わざわざ電話をくれたのだ。故郷は遠く離れており、コロナ禍の今では、直接会うことはかなわない


▼宮野君と話をするのは15年振りぐらいだろう。おとなしく、優しい男で、いつもニコニコと笑っている印象が残っている。電話口の声からは、当時と変わらないであろう彼が、容易に想像できる。そんな宮野君が一度だけ、激高した出来事があったことを思い出した


▼暑さが厳しい夏の日、英語の授業だった。問題を解く生徒に対して、教師がハッパを掛ける。「今、勉強を頑張れば、いい大学に行って、いい会社に入れる。こんなに暑い中、ばかみたいに外で働かなくてもいいんだぞ」。宮野君が机を叩き、勢いよく立ち上がる。怪訝(けげん)な顔で教師をにらみ「どういう意味ですか。説明してください」と食って掛かる。思いもよらない反応に、教師はたじろいだ


▼彼の実家が建設業だということを後に知った。教師の発言は家業や、そこで働く従業員を蔑視するもので、聞き流せなかったのだろう。真面目に努力を重ねて、建設業に就いた人も多いはずだ。また、現場で汗を流す業界があってこそ、安全・安心な暮らしがある


▼慎重に言葉を選んでいるときに、本音は出にくい。逆に、ぽろっとこぼした言葉にこそ、本音が現れるものだ。潜在的な差別や偏見は常に心の内にある。心の在り方が言葉をつくり、発せられた言葉が他者の心をつくる。失言の内容や意図などが、差別問題の本質ではない。(群馬・TH)


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