コラム

2021/08/03

岩戸は開くのか(新潟・CY)

岩戸は開くのか


▼残業の多かった知人が早い時間に家にいる。第2子の誕生で育児休業を取得したそうだ。上の子どもの保育園への送迎、掃除洗濯、食事作りにも精を出すその人は、そう、父親だ。男性の取得は彼の職場でも史上初。居合わせた仲間は拍手喝采、彼と職場の株が急上昇だ


▼数年前から異業種ミーティングを続けている。だいたいはたわいもない話だが、ある瞬間に驚くようなアイデアが生まれることがある。はじめは、混沌(こんとん)。それを気兼ねなく口にできる場であることが大きいように思う


▼過日、ドイツ出身の美術作家マリー・ハーネさんを交えての打ち合わせとなった。古事記の天岩戸伝説をもとに、新潟市で滞在制作を行った。コロナ禍やさまざまな争いの中にある昨今。岩戸は実はずっと閉じているのではないか。閉じこもったアマテラスをいかに外にいざなうかを模索する、参加型の作品だ


▼来場者が解を残す。「遊ぶ」「飲み会」「子どもに返る」…。切実さとおかしみ、古来より変わらぬ楽しみの原点。さりとて、ここで自由に表現してと乞われ、躊躇(ちゅうちょ)した。誰かが言った。「子どものころは誰もが歌って踊って伸び伸び絵を描いた。いつからか、そんなことはまるでなかったかのように振る舞う」


▼それでも未知に触れたい気持ちはある。恐る恐る下手な英語で話しかけると、流ちょうな日本語で一安心。話しかけなければ、ミヒャエル・エンデの話もインスピレーションを与え合うことも無かった。よちよちでもその一歩が何かにつながる。他者を許容し、不器用でも踏み出すことだ。知ったような顔ですましていては、岩戸は開くはずもない。(新潟・CY)


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