コラム

2021/09/09

尊重から一歩踏み出す(埼玉・MK)

尊重から一歩踏み出す


▼記者たちが取材をする方法はさまざまだ。直接会って話を聞くことは基本だが、電話で済む場合もある。一般紙も専門紙も、その点で大差はない。そうして手に入れた情報をいち早く読者に提供することが記者に求められる成果だ。言い換えれば記者は読者の「知る権利」に奉仕する職業ということになる


▼「知る権利」は憲法21条に定められた「表現の自由」に結び付けて考えられることが多い。とはいえ「取材の自由」が憲法上保証されているかというと、実はそうではない。保証の有無を決定付けたのは1969年に判決が下された博多駅TVフィルム提出命令事件だ


▼報道機関の報道は国民の知る権利に奉仕するもので、報道の自由は憲法21条の「保障のもとにある」。一方で取材の自由は憲法21条の精神に照らし「十分尊重に値する」と判決を下した。この一文に記者は縛られている。どれだけ強気に出ようと取材活動はあくまで「十分尊重」された範囲にとどまり、相手方は話す義務を課されるわけではない


▼予算に関する取材では、報道機関向けに提供される予算書や予算概要を基に、予算に関係する部署で話を聞く場合が多い。取材先の職員からは「議会前」や「あくまで案だから」と断られることも。しかし法律や条例に「予算が可決する前に報道機関へ話してはいけない」根拠があるわけではない


▼情報開示の根拠となる情報公開法が、ことしで施行20年を迎えた。「尊重」から一歩踏み出すための大切な制度。法律が定める「知る権利」は民主主義の根幹であり、後退を許してはいけない。重大な責任が、記者の双肩にかかっている。(埼玉・MK)


厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら