平島前日建連会長
平島 治 前日建連会長に訊く
提案・要望を積極的に
すべて技術審査困難
地方建設業の再編視野に
建設業は技術者の集団である。その技術者集団が家をつくり、学校をつくり、病院をつくり、道路を
つくり、橋をつくり、上下水道をつくり、空港をつくり、町ができあがる。東京や大阪のような大都
市もあれば、地方の中核都市や小都市もある。全国のそれぞれ特徴ある町が集まって日本の国土がで
きあがる。その国土づくりに不可欠なのが公共事業である。国民の生命と財産を地震や洪水などの自
然災害から守るという重要な使命を担っている公共事業。その公共事業が現在揺れ動いている。
最大の要因のひとつに入札制度がある。明治以来、長年にわたり価格のみによって落札者を決定し
てきた入札制度。その制度疲労が最近顕著になってきた。制度疲労の直撃を受けるのは建設業である
。危機にある建設業にとって「起死回生」とも言うべき法律が施行された。
「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(品確法)である。この法律によって建設業が「公共
事業の担い手」として真の復活を遂げることができるか、関係者の期待は大きい。平島治・前(社)
日本建設業団体連合会会長は「技術者集団としての建設業の誇りと使命感」を強調する。「品確法施
行がこれからの建設業にどのような影響を与えるか」を訊いてみた。
-「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(品確法)が4月1日から施行された。また、改正独
占禁止法が平成18年1月1日から施行の予定である。平島前会長は常々、公共調達の入口の問題とし
ての品確法と出口の問題としての改正独禁法を総合的に考えていくことが大事だと強調しておられた
。この2つの法律が動き出すことでどのような印象をお持ちか
平島前会長 公共調達は国民の税金を使って行うものだから、最良の品質のものを安い価格で提供
することは大事なことである。公共事業執行に対する国民の要望も強くなってきている。しかし、こ
れまでの価格だけで決める公共工事の発注の仕方には問題があった。日建連としても「価格だけでな
く、技術力を含めて総合的に評価する入札・契約制度の施行」を政府に提案し、要望してきた。自民
党の古賀誠先生を会長とする「公共工事品質確保に関する議員連盟」が中心となって品確法の法案作
成に努力してこられた。法案が可決成立し、法案作成作業に携わってこられた先生方に大変感謝して
いる。品確法は理念法であり、具体的な運用はこれからである。工事完成品の品質確保を図っていく
には技術力が物を言うが、その提案技術内容を客観的に誰が評価するかなど運用にあたっては難しい
問題も出てくる。日建連も品確法が実効性あるものになるよう提案や要望を行っていきたい。
改正独占禁止法については、公共調達の出口の取り締まりとして位置づけられるものであり、課徴
金の引き上げなど厳粛に受け止めていきたい。品確法と改正独禁法の施行は公共調達が健全に機能す
る上で大きな前進である。
-今後の建設業のあり方について
平島前会長 全国には大手建設業、中堅・中小建設業など約56万社あるが、それぞれ多くの問題を
抱えている。現在、日建連法人会員は56社で、全建設企業数の0・01%しか占めていないが、主要
な仕事を行っている。高品質なものを安い価格で国民に提供することは公共工事も民間工事も共通し
ている。今回の品確法の施行を機にますます技術競争が激しくなるだろう。大手建設業はこの10年で
厳しい競争にさらされることは確実だ。技術力をより高めて適正な利潤を上げることは企業の最大の
目的のひとつである。構造物の性能については、完成して間もない時期だけでなく、10年後、20年後
のトータルな性能を高めていくことが大事で、大手ゼネコンを中心にその体制ができ始めている。
地方の中堅・中小建設業では公共工事の減少によりダンピング受注が激しくなっている。「落札率
が低いほどよい」という世論も後押ししているようだ。工事品質をないがしろにした底なしの価格競
争は品確法の精神に反する。地方自治体における公共工事でもこの品確法の精神の徹底が大きな課題
になってくる。ただし、年間20数万件という全国自治体の膨大な公共工事をすべて技術審査すること
は困難だろう。一定規模以上の大きな工事をまず技術審査対象にするなどできるところから実施して
いくべきである。いずれにしても、地方の中堅・中小建設業間の技術競争は大手と同様激しくなるだ
ろう。今後は、地方建設業の再編も視野に入れなければいけない。
-国土交通省の国土交通技術会議が今年4月、地震や洪水、交通事故などから国民を守る「防災・安
全」などを柱とする科学技術政策の提言をまとめた。平島前会長も委員として参加されたが、「防災
・安全」の分野で建設業の果たす役割について
平島前会長 国土交通省をはじめ関係省庁が国土づくりを推進していく上で、国民を地震や台風な
どの災害や交通事故から守ることは”社会的技術”と言うべきものと密接につながっている。建設業
は、道路、河川、港湾などの社会基盤の整備を通じて高い技術レベルを維持している。「防災・安全
」の分野でも建設業からの意見・提案などを積極的に行っていくことは大変意義のあることだと思う
。日本は世界の中でも自然災害の多い国のひとつなので、耐震技術、護岸技術など災害防止の分野で
社会的技術を所有している。現在、地球規模で災害が頻発しており、日本の持つ技術を国内にとどま
らず、海外においても活用し、貢献していくべきである。
PROFILE 平島 治(ひらしま おさむ)日本建設業団体連合会会長
昭和7年1月15日生まれ、東京大学工学部建築学科卒業、平成9年大成建設?代表取締役社長、13年
同社代表取締役会長(現在)、団体等要職、中央建設業審議会委員、社会資本整備審議会委員、日本
経済団体連合会評議員会副議長・常任理事などを兼務