岸田衆議員
岸田 文雄衆議院議員に訊く
総合評価に社会貢献考慮
第3者機関で民間開放
発注者の意識改革も重要
「公共工事の入札契約制度に正解は無い」と言われてきた中で、制度改革への突破口と位置づけられ
た「公共工事の品質確保の推進に関する法律(品確法)」が4月1日施行された。
そこで、立案、作成、野党との協議など、中心的な役割を果たしてきた岸田文雄衆議院議員(自民
党)に新法成立による効果などをたずねた。
岸田議員は、品確法の中で一番重要なのは「発注者の意識改革だ」と主張した。品確法では、価格と
技術を総合的に評価するよう発注者に義務付けた。価格競争に技術力評価を加え、物差しが2つにな
ったことで、発注者は「入札参加の段階と入札時点の2段階で評価できるにようになった。必然的に
、従来の価格評価のみの選別から、総合的な評価を得た上で、落札者を選別する手法へシフトする」
と強調した。
また、これまでの発注者は、毎年度の緊縮予算を理由に工事を安く完成させることに意識が集中し
、価格競争のみで工事を発注してきた。「その結果、ダンピング(過度な低価格落札)問題が起こり
、公共工事の品質確保に懸念が抱かれるようになった」と価格評価のみの業者選別による弊害が、同
法の施行により補足可能となったと力説。
さらに、総合評価方式が浸透することで、ほとんどの工事が技術力のある大手ゼネコンに取られ、
地場企業に仕事が回らないとの懸念があることについて、岸田議員は「従来通りのランク制は残る。
大手ゼネコンが対象となるような工事は、高度な技術力を必要とするもの」と述べ、総合的な評価と
は企業の技術力や経営力のほかに「災害時のCSR(企業の社会的責任)や環境配慮などの社会的貢
献度も配慮するべき」との認識を示した。
一方、地方自治体の中で、企業の技術力評価を適切に行える技術職員の不足が問題視されている課
題については、品確法で示される技術評価能力がない発注者への支援策として、当初は、各都道府県
にある建設技術センターの活用を想定しているが、将来的には民間技術者OBや学識経験者で構成す
る民間企業が、技術評価を行い、それが新たな業種となるよう期待していると民間参入の可能性を推
奨した。
そのほか、品確法の付帯決議の中に、入札過程への第3者意見の反映や苦情への対応など、4年前
に施行した入札契約適正化法(入契法)に絡む部分が盛り込まれた。今後の両法の関連性について、
岸田議員は「公共調達をトータルで考えれば、必然的に関わりを持ってくる。入契法と品確法はセッ
トで考えるのが当然だ」と述べた。
-公共工事の品質確保の推進に関する法律(品確法)が施行されるまでの紆余曲折について
岸田議員 公共事業は、出来上がってからでなければ実際の品質について、判断することは難しい
。かと言って、良い品質のものを後世に残して行くことは極めて重要である。
しかし、昨今の公共事業量の減少の中で、企業は工事受注を欲する気持ちから、過度な低価格落札
受注(いわゆるダンピング)が見られ、公共事業の品質が懸念される問題が生じた。逆に、企業を選
別する発注者側も、毎年度の予算緊縮を理由に工事を安く完成させることに意識が集中し、価格競争
のみで工事を発注してきた。
そういった中で、自民党内の公共工事品質確保に関する議員連盟(古賀誠会長や逢沢一郎会長代理
)は、法整備を視野に入れた勉強会を始動。その後、同議連は、公共事業を取り巻く環境が厳しい中
にあって、価格競争のみを優先するという風潮が、広く国民の中にあることは憂慮すべきだとの問題
意識から、法案作成チームを設置した。
また、独占禁止法の改正議論が発生した平成15年末頃には、品確法の作成作業も急激に加速。法案
は、昨年の臨時国会へ提出し、継続審議となったものの民主党との与野党協議の末、新たな修正法案
を共同提出。3月30日の参院本会議で賛成多数で可決、成立し、4月1日から施行された。
-品確法の効果はどのくらいあると考えるか
岸田議員 品確法は、長い目で見て周知していけばよい。この法律で一番重要なのは、発注者の意
識の改革である。従来、公共工事を発注する場合、企業を選別する物差しは価格競争のみだった。な
ぜならば、毎年度の緊縮予算を理由に工事を安く完成させることに意識が集中し、価格競争のみで工
事を発注してきたからだ。
それが品確法では、価格と技術を総合的に評価するよう発注者に義務付けた。価格競争に技術力評
価を加え、物差しが2つになったことで、発注者は、入札参加の段階と入札時点の2段階で評価でき
るにようになった。必然的に、今後は従来の価格評価のみの業者選別から、総合的な評価を行った後
に、落札者を選別する手法へシフトする。価格競争の前に、品質確保を担保できないような企業を排
除することも可能になった。
また、高度な技術が必要な工事では発注者と技術提案者(受注希望者)が話し合い(交渉)を行う
ことで、その工事に最も適した予定価格を決めることができる。それが、無駄なコスト削減にもつな
がり、国民や後世に対して、本来の公共事業の役割を果たすこととなる。もちろん、交渉内容などは
国民に公表することが前提だ。
ただ、すぐに全ての発注者がこういった方法で企業を選別することは難しい。当初は、国土交通省
などが高度な技術が必要で、かつ大きな工事などから事例を重ね、徐々に他の自治体へ浸透させれば
よい。
-発注者の意識改革といっても、市町村まで浸透させるには時間がかかるのでは
岸田議員 品確法では、技術評価能力がない発注者への支援策についても示している。当初は、各
都道府県にある建設技術センターの活用を想定している。しかし、将来的には民間技術者OBや学識
経験者で構成する民間企業が、第3者機関として技術評価を行い、それが新たな業種となるようなこ
とも期待している。
また、技術交渉などを必要としない工事については過去の工事成績を活用した方法もある。すでに
国土交通省では、過去の工事成績データベースを活用した発注を試行している。
ただ、発注者支援策を具体化しても重要なのは、発注者の意識が変わることだ。
-当然、新法への期待はあるが、総合評価方式に一部懸念の声も聞かれるが
岸田議員 特に聞くのは、総合評価方式が浸透することで、ほとんどの工事が技術力のある大手ゼ
ネコンに取られ、地場企業へ仕事が回らないとの懸念があるようだが、従来通りのランク制は残るの
で安心して欲しい。
大手ゼネコンが対象となるような工事は、高度な技術力を必要とするもので、それ以外の工事は従
来通りの価格中心の入札も可能だ。ただ、入札参加の段階と入札時点の2段階評価で選別されるので
、以前の意味での価格中心の競争とは違う。
また、総合的な評価とは企業の技術力や経営力のほかに、災害時のCSR(企業の社会的責任)や
環境配慮などの社会的貢献度も配慮する方法が好ましい。
-品確法の施行で、入札契約適正化法(入契法)がいまだに浸透していない背景があるが
岸田議員 入契法では、公共調達の透明性の確保をうたい、品確法は公共調達の品質確保を目的と
した。しかし、公共調達をトータルで考えれば、両法律はセットで推進していくことが必然だ。
品確法の付帯決議の中にも、入札過程への第3者意見の反映や苦情への対応など、4年前に施行し
た入札契約適正化法(入契法)に絡む部分が盛り込まれた。これは、公共調達全体で考えた場合に、
必要不可欠な部分だったからだ。
法律が増えたことで、入契法の趣旨や入札契約制度自体の運用のあり方がより一層、発注者に浸透
させやすくなったと思う。
PROFILE 岸田 文雄(きしだ ふみお)衆議院議員
昭和32年7月29日生まれ、早稲田大学法学部卒業後、?日本長期信用銀行入社、平成5年第40回総選
挙にて衆議院議員自由民主党から初当選(広島県第一選挙区)、当選4回(平成5年初当選以来連続
当選)、文部科学副大臣、建設政務次官などを経て、現自民党経理局長などを兼務