インタビュー

2008/01/17

国交省佐藤技術審議官インタビュー

◎インタビュー

◎現場力を重視

◎新たな調達の全体像を示す年に

◎佐藤直良技術審議官

◎国土交通省


 国土交通省の佐藤直良(さとう・なおよし)大臣官房技術審議官は日本工業経済新聞社のインタビ

ューに応じ、平成20年は「新たな調達の全体像を示す年にする」と決意を表明した。公共工事品確

法に基づく総合評価については、これまで国が先導してきた経緯があるが、今後は都道府県と市町村

も同格でスクラムを組み、発注者責任を共有するステージに移るべきと話している。懸案の入札不調

対策では、民の見積もりを官の積算に取り入れる試みを加速させる方針を示した。また「ものづくり

の原点は現場」という認識から、ICT(情報通信技術)など最先端の技術と、経験に裏打ちされた

現場力との両面を重視していく考えを語っている。




―昨年12月に自民党の品確議連が提言をまとめ、関係省庁連絡会議が課題の整理を行った。公共調

達を取り巻く環境は今年も大きな変化が予想されるが、展望は

佐藤技審 ここ数年、世の中の要請を受けて公共調達の本来の使命を全うしつつ、社会情勢に合わせ

て調達の仕方を変えていこうとやってきた。平成20年は集大成として、最初に掲げた「良い循環」

を概成させたいと考えている。真面目に良い仕事をした人が報われ、受注機会に恵まれ、そして受注

機会の中で、良い品質のものを適正な価格でタイムリーに供給する。そのシステムを、完成形とまで

は言わないが、概成させていきたい。安定するまでに少し時間はかかるだろうが、概略の形でも、そ

の姿を世の中にお示しする年だと思っている。調達の入口だけではなく、すべてのプロセスについて

今年、何とか目途を付けて、新しい調達の全体像を示したい。


―市町村の総合評価徹底について。品確議連と関係省庁連絡会議において、真っ先に示されているが


佐藤技審 自民党の先生方から、組織体制の問題について指摘されている。公共工事品確法制定以降

、国が手本を示して、地方整備局が中心になって、色々な啓蒙と具体の支援をやってきた。そろそろ

、国が先導してという話ではなく、発注者が共通認識を持って進める体制づくりをやらなければいけ

ない。発注者という意味では、国も県も市町村も、誰が上という話ではない。請負者の立場からして

みれば、国と取引するか、県と取引するか、市町村と取引するかということ。総合評価をやっていた

りいなかったり、国と県と市町村とで全部システムが違うのでは、請負者は会社をどの方向へ向けて

いけば良いのか。発注者の違いによって、会社の運営の方向性が左右されてしまう。国が上、都道府

県が中、市町村が下というのではなく、同格としてスクラムを組んで、総合評価あるいは品確法で規

定された良い品質のものを世の中に提供するという発注者責任を共有しようと。新しいステージに移

るべきで、そういう枠組みを考えなければいけない。


―入札不調が増加しているが、現状認識と対応の方向性は

佐藤技審 ダンピングと不調の両方が同時進行的な形で現れているというのは恐らく、我が国で初め

てだろう。施工者がきちんと利益を出していくのは、会社として当たり前のこと。経審もそうだが、

これまでは完工高偏重の考え方が主流だった。これからは、利益率重視の時代に間違いなく変わって

いく。工事の中で、工夫によって利益率が高まる、あるいは制約条件が多くて利益が出そうもないと

いった見極めを各社がしつつ、一般競争で応札するという志向がますます強まるだろう。発注者の積

算は、標準的な工法、直近の資材価格、労務単価を用いて予定価格を設定している。標準的な工法と

いうものがフィットする部分もあるが、現場条件が複雑などの理由でフィットしない部分もある。時

々刻々の条件まで、積算には反映できない。我々の歩掛りと単価は全部オープンになっている。そう

すると応札者側の積算能力も、昔に比べるとはるかに上がってきている。現場の段取りや、日々の条

件によって現場がどう変わるかも含め、応札者の積算あるいは予算を組む能力を、十分に反映しては

どうだろうか。それをベースに見積もりをいただき、予定価格を作成する。そういう時代になってき

たと思う。


―地方整備局では既に、応札者の見積もりを予定価格の参考にするという取り組みが動きだしている

佐藤技審 今年も強力に進めていく。官だけが積算するわけではなく、民の側でも積算をしている。

一定の歯止めと緊張関係は持たなければいけないが、社会資本を構築する同じパートナーとして、民

の持っているノウハウ、能力も、官の積算の中にどんどん組み入れていきたい。応札者は落札したら

、必ず実行予算を組んでいる。現行では落札してから実行予算を組んでいるが、本気で落札しようと

するなら、入札前にある程度やっていただこうと。本気で取りにいく工事を選別していただく時代に

なる。入札に参加する会社が多ければ良いという話ではない。50者集まったほうが10者よりも競

争性が高まるというのは違う。役所がコントロールするのではなく、各社が戦略としてこの工事を取

りにいくと。事前の準備はかなりするはず。元請が利益を出し、専門業者も利益を出すという関係に

、オープンブックに近づいていくためには、不可避な部分ではないだろうか。すんなり試行がうまく

いくとは思っていない。ただ、これはメッセージ。発注者はオールマイティーではないと。今の制度

の中では、世の中のためにしっかり予定価格をはじく。しかし我々は百点満点ではない。そこはパー

トーナーとして、受注者側に補ってもらうしかない。


―施工プロセスチェックやワンデーレスポンスなど、現場重視の施策を多く打ち出しているが、背景

・目的は

佐藤技審 ものづくりの原点はどこかと言えば、現場しかない。霞が関でものをつくっているわけで

はない。一つひとつの現場の条件、そこで働く人たちの知恵、周辺住民の協力。ステークホルダーの

力が結集しないと、現場は動かない。実際に現場で、どなたが働いて、どういう工夫をされて、結果

として良い品質のものが早く供用できたとすれば、称賛すべき話。そういうものをきちんと評価しな

ければいけない。施工の段階でどういう工夫をしたか、品質に対してどういう気配りをしたかなどを

チェックし、それが(入札契約の)入口での評価のベースになっていくという形を、今年はある程度

、作りたい。


―このほか現場重視の施策で考えていることは

佐藤技審 CALS/ECを徹底的に進化させる。現場でもまだ、書類至上主義的な意識が残ってい

る。書類で持っているほうが安心というのはわかるが、とても非効率なことでもある。もう少しIC

Tを活用して、現場の施工に専念できるような仕組みをつくりたい。この業界の中に最先端の技術を

どんどん入れていかなければと思っている。その一方で、直感的な現場力も大事。経験と知恵を現場

に取り戻さなければいけない。今、それを担ってくれているのは、専門工事業者や地場の方々、また

一部大手のスペシャリスト。二律背反ではあるが、先端的なICTを入れて、一方では、例えば土質

データではこうなっているが、触ってみたらちょっと違うぞというような感覚を養う。発注者も受注

者も協力して進めなければいけない。


―新潟県中越沖地震における地元企業の地域貢献度調査では、地域建設業者の役割の大きさが浮き彫

りになった

佐藤技審 世の中には役割分担がある。どちらが偉いとか、どちらが優れているというのではなくて

。地元企業と大手企業という切り口もあるし、元請と専門工事業者というのもある。どれが欠けても

困る。中越沖地震でも、いざという時にすぐ駆けつけて、色々な活動をしていただけたのは、そこに

住んでいる人。仮にその地域で地場の建設業者さんがゼロだったらどうなるのか。地場の業者さんが

いることによって、災害対応力は全然違ってくる。あの場所は崩れやすいとか、その道は危ないから

入るのは少し気を付けたほうが良いというアドバイスひとつで、全然違ってくる。大手の会社がいき

なり行っても、その地域の“肌のツヤ”まではわからない。そういう現場力を持った方がいるかどう

かで、災害対応力、復旧のスピードはまったく違う。平常時だけでなく緊急時も、苦しくても大きな

役割を果たしていただけるというのは、もの凄い使命感だと思う。

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