国交省谷口技監インタビュー
◎道路整備のスピード重要
◎「今後10年間が勝負」
◎国際競争待ったなし
◎国土交通省谷口博昭技監インタビュー
国土交通省の谷口博昭(たにぐち・ひろあき)技監は日本工業経済新聞社のインタビューで、道路
整備のスピードが大事だと語った。国際競争と少子高齢化が「待ったなし」の状況にある中、今後1
0年間の社会資本整備の重要性を述べている。またインフラは今生きている世代だけのものではない
という観点から、将来世代に思いを馳せた上で整備していく考えを話した。今後本格化する社会資本
ストックの更新に関しては、予防と保全を念頭に置いた戦略的維持管理への転換について述べている
。
―公共事業の削減が続いている中、これからの社会資本整備についてどうみるか
谷口技監 この10年間が重要だと思っている。少子高齢化と国際競争は待ったなしの状況であり、
その後、高度成長期に整備した橋梁などの施設の更新時期が控えている。しかしながら、公共事業関
係費は財政再建の関係で非常に厳しい。平成10年度の補正後のピーク時14兆9000億円の水準
から、今国会で審議していただいている予算は6兆7000億円ということで、半分を大幅に下回っ
ている厳しい状況にある。「経済財政改革の基本方針2007」(骨太の方針)では、引き続き最大
限の削減を行うということになっており、非常に厳しい。我々としても、コスト構造改革や入札契約
の適正化、事業評価の厳格化などに取り組んでいく。ただマイナスがずっと続くというのではなく、
非常に厳しい水準となっているので、そろそろ底固めがなされるよう頑張っていければと思っている
。
―今年度は道路の中期計画素案を策定したが、これからの道路整備のビジョンについて
谷口技監 5年ではなかなか姿が見えてこないということで、10年の中期計画を出させていただい
た。社会資本重点整備計画の9分野の中でも、道路に対する要望は非常に大きい。それだけ道路が、
暮らしに直結しているということだろう。少子高齢化と国際競争が待ったなしということで、整備の
スピードが求められている。それ故に、ガソリンであれば、高い暫定税率になっていると思う。余っ
ているからということではなくて、アメリカやEUと比べると、整備水準は道半ば。10年かけてき
っちりやるということより、前倒しでもやらなければならない。新しい世紀の国のかたちをどう形成
するかということだが、その中でも道路は骨格。それ故に要望も多い。例えば20世紀が子供の骨格
だとすれば、新しい世紀はそれを改善するという発想ではなくて、成熟した大人の骨格にならなけれ
ばいけないと思う。そういう発想に立てば、交通量が満杯だから新しい高速道路を造るというのでは
なくて、国土のかたち、国土の保全、その地域の風土、歴史、文化という観点からすれば、高速道路
によって国土をきちんと一体化しようと。そのことによって、それぞれの地域の個性を生かしつつ、
国土としても大きな力、底力が発揮できるという観点に立つべき。その証拠に東アジアの中国、イン
ド、ベトナムなどでは、先行投資してでも、国際競争に勝つために道路整備をやろうとなっている。
また先行するアメリカ、EUですら拡充、更新しようとしている。そうしないと国際競争に勝てない
ということだろう。また新しい世紀のライフスタイルに対応できないということではないだろうか。
日本はまったく逆のベクトルで、国際競争に勝てるのか。このままで将来世代、子供や孫たちに申し
訳が立つのかということ。地震も多いといった日本の脆弱な国土を加味してストック水準、整備水準
を考えるとまだまだ道半ばであり、この10年くらいが勝負になる。整備のスピードを上げていかな
ければならないが、そういった議論が少し不足している。公共事業を減らしていくということは、祖
先からいただいたこの大事なインフラを食い潰したままで、将来世代にバトンタッチするということ
だから、申し訳ないという気持ちに立つべき。インフラというのは今生きる我々だけのものではない
。将来世代に思いを馳せると、財政再建など負の遺産を解消しつつも、今が頑張り時だと考えている
。
―高度成長期に整備した社会資本ストックが更新時期を迎えつつある。どのような観点で対応してい
くべきか
谷口技監 約15万橋ある道路橋梁の場合、建設後50年以上を経過する割合は、18年度6%だっ
たのが、28年度に20%、38年度に47%となる。水門、ポンプ場などの河川管理施設について
は、約3600施設あるうち、18年度10%、28年度は23%、38年度は46%となる。20
年後は、50年以上経過する施設は概ね半分くらいになる。50年経ったら寿命が終わるという意味
ではないが「荒廃するアメリカ」の教訓があるのだから、予防的な管理をしていく。戦略的維持管理
と言っているが、事後的な管理から、予防・保全的管理への転換を考えている。寿命がくる前に、大
規模な更新に至る前の損傷が軽微な段階で対策を講じ、施設の延命化を図るという思想。そのために
点検工法、劣化予測などの技術開発、技術基準の見直し、専門技術者の養成、点検・修繕データベー
スの構築を進めていく。タイムリーに予防的な手当てをしようと。体で例えると、定期的な検診を受
けたり、ちょっとおかしいなと思ったら精密な検査をやってみたり。手遅れになる前に手術をすると
いうこと。非破壊検査などできちんと診断をして、その橋梁に合った手当てをしていくことが大事。
市町村が管理している施設については、データベースを共有しながら、マニュアルを示しながらやっ
ていく必要があると思っている。
―入札契約制度について、直轄事業における20年度の展望は。また自民党の公共工事品質確保に関
する議員連盟からは市町村の総合評価徹底が指摘されているが
谷口技監 入札契約制度については「安物買いの銭失い」にならないよう、価格だけでなく、品質を
担保する。一般競争を拡大しているが、総合評価をきちんとやっていくということが大きな流れ。工
事については原則総合評価でやっていく。下請企業へのしわ寄せということもあるので、専門工事部
門についての評価を行う総合評価を拡大する。調査設計業務においても総合評価を本格導入していき
たい。入札ボンドの対象工事も拡大する。また不調・不落が増えており、予定価格も大きな問題とな
っている。このため予定価格の作成に見積もりを活用し、実勢価格の予定価格への反映を一層促進し
ていきたい。それと低入札調査基準価格の見直しも検討し、新しい価格を地方公共団体に普及促進し
ていきたい。また市町村の総合評価については、多くの市町村で技術者が少ない、場合によってはい
ないというところもある。補助事業における支援ということで、総合評価の取り組み費用について補
助金によって支弁することを続けていく。また総合評価は複雑だというイメージもあるようなので、
わかりやすい地方公共団体向けの実施マニュアルを充実させる。地方公共団体向け工事成績評定要領
、地域ブロックごとの協議会の設置、第3者機関の運営マニュアル、発注者支援制度なども考えてい
る。
―地域建設業者の重要性について、どのように捉えているか
谷口技監 新潟県中越沖地震における地元建設関連企業の貢献調査によると、支援活動を実施した企
業は309社で、そのうち地元企業は64%の199社だった。特に初動対応で見てみると、地震発
生から2日までに約半数の151社が初動対応し、そのうち90社は2時間以内という極めて迅速な
対応だった。この90社のうち8割強が地元企業。災害は地震だけでなく水害などでも、初動対応が
重要になる。地元企業の貢献度は高い。公共事業がこれだけ減ってきて、基本的には競争する中で、
経営力と技術力に優れた企業が残るという観点から、適正な利潤で業が営めるということが重要だと
思う。災害時に貢献していただけるような優れた企業が、その地域に残るよう、国としても努めてい
く必要がある。建設業だけでなく、優れた者、富める者が弱者を救うというのが社会の理念だろう。
そこに光を当てないと、社会は成立しない。大都市東京があって地方があるのも事実だが、地方があ
って大都市東京が成り立っている。水、電気、水産物、全部そうだろう。「情」と「理」とよく言わ
れるが、理屈だけでは、政治は動かない。やっぱり情がないと。政治の温もりがないと、社会は成り
立たない。そういうものが問われているのではないか。建設業の現場の最先端で働いている人が適正
なサラリーをもらえるようにしないと成り立たない。
【略歴】
昭和23年生まれ。同47年、東京大学工学部(土木)卒。同年、建設省入省。国土交通省道路局
企画課長、近畿地方整備局長、道路局長などを経て、平成18年7月より現職。