インタビュー

2009/07/27

国土技術研究センター理事長 大石久和氏インタビュー

◎21年度・キャンペーン『建設業はいらないんですか?』

◎国土技術研究センター理事長・大石久和氏インタビュー

◎語れる力を持つべき

◎資本ストックは次世代への贈り物


 国土技術研究センター理事長で、国土学アナリストとして活躍している大石久和(おおいし・ひさ

かず)氏に、社会資本整備や建設業界のあり方についての見解を聞いた。大石氏は国土交通省の道路

局長、技監を歴任し、現在は東京大学大学院特任教授なども務めている。また近著の「国土学再考」

(毎日新聞社)が好評を博している。

     ◇

 ―建設業、公共事業に対して様々な批判があるが、どうみるか。

 大石 公共事業について、直近の景気対策は別として、日本はここ10年間ほどで5割に下げてき

ている。この間、世界の国々はどうしたか。イギリスは2倍に、アメリカは1・8倍に上げている。

フランスは1・5倍。投資して、より使いやすい国土、より安全な国土を持つようにしている。経済

などの国家間の競争、国民が競争するためのツールを、政府が与え続けてきた。我々は財政が厳しい

から、無駄な公共事業があるからという理由で、下げ続けてきた。これがここ10年間の動き。公共

事業の手続きが不透明だとか、談合が行われているとか、政治家が介入しているとか、いらないもの

を造っているとか、そもそも予算が大きすぎるとか、色々な理由をつけて説明しようとしているが、

私は、全部崩れている、正しくないと思っている。我々はこの10年間、将来世代に対する投資、贈

り物を、どんどん下げて半分にした。将来世代に我々がどう評価されるのかを、じっくり考えるべき

。我々は過去の世代の投資のおかげで、今日の日本を手に入れている。我々は次の世代へ、より良い

環境を、社会資本ストックを残していかなければならない。人間が働きかけないことには、自然環境

といえども残せない。

 ―社会資本整備の担い手である建設業は今後どうあるべきか。

 大石 道路や空港などは全部、国民の生活のための手段。空港が良くなるということは、国民の暮

らしがより効率化するための手段だろう。その手段を提供しているのが建設業界。そうであるならば

、手段は説明にならないのだから、その手段が目的とするところは何なのかを語れる力を持たなけれ

ばならない。道路は目的ではない。この道路を造ることによって、どういう生活をこの県の方にして

ほしいのか、どういう生活を実現するためにこの道路を造っているのかを語れないといけない。これ

は、発注者が語れれば良いということではない。実際に仕事をする建設業者も語れる力を持ってほし

い。請負業に逃げるな―と言いたい。受注者も事業の意義を考えると、求められる品質水準はどうか

、与えられた品質水準を守れば良いというだけでなく、自分で考えて品質水準が言えるようになる。

私は、早くそうなってほしい。これからは発注者が全部スペックを決めるのではなくて、こういうこ

とをやりたいと話せば、A社、B社、C社、それぞれの提案を聞かせていただいて、価格と品質とで

、どの会社が良いかを発注者側が決める時代が来てほしいと思っている。

 ―世間が建設業に持つイメージは悪い。どうするべきか。

 大石 アメリカやフランスなどでシビルエンジニアの地位はとても高い。日本は土木の地位が低い

と嘆いて、土木という名前も変えなければいけないと言うのは、自分たちが、低く低くしてしまって

いる。もっと自らが高めなければいけない。この産業界は決して小さくはない。公共事業というのは

、一人ひとりが利潤を動機にはやれないようなものを、公共が、みんなの福祉のために行うこと。こ

れが後ろめたいものであったりするはずがない。もっと自信を持ってやるべき。かつての時代だった

ら談合ばっかり繰り返してと言われて一発で終わりだったが、業界の体質も変わっている。もう談合

の世界にしては絶対にいけない。価格と品質とで競争する。経済学者も言っていることだが、価格だ

けで競争すると談合が起こる。品質で競争すると談合は起こらない。品確法の精神でやっていくこと

によって、後ろ指をさされない産業界だという道を歩み始めよう。競争している姿を国民に見せない

といけない。

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