日本水道協会御園専務理事インタビュー
◎日本水道協会 御園専務理事インタビュー
政府の成長戦略の1つ海外水ビジネス。日本水道協会(会長・石原慎太郎氏。東京都知事)では、
御園良彦専務理事が中心となり、ベトナムやカンボジアなどでセミナーを開催するなど積極的な行動
に打って出ている。しかし、水ビジネスはようやく緒に付いてきたばかり。これからが期待される分
野だが、案件獲得にはまだまだハードルが高いようだ。一方、日本国内ではボトルウォーターに押さ
れ、「水道水を飲まない」現象が広がっている。同協会では“蛇口回帰”のPRに積極的だが、なか
なか浸透しない。そこで御園専務理事に海外展開の今後と蛇口回帰の現状と課題についてインタビュ
ーをした。
◇
―海外水ビジネスがようやく緒に付いてきたようですが、東京都や横浜市など地方自治体の海外展
開についてはどのような考えをお持ちでしょうか。
御園 昨年5月、三菱商事と官民共同の投資ファンドの産業革新機構がオーストラリア国内2位の
300万人の給水先を持つ水道事業会社を買収して、官民が初めて共同で海外の水ビジネスに乗り出
した。東京都はコンサルタント業務で全面協力するが、現状としてはその程度のもので本格的ビジネ
スとしてはこれから。地方自治体はもっと具体的に踏み込んでいく必要がある。О&M、いわゆるオ
ペレーションやマネジメントなどの管理委託業務を請け負わなければ安定した収益の確保は難しい。
―登山に例えれば、今は山の入り口に立ったところでしょうか。
御園 全くその通りだ。民間企業はすでに海外の国々に触手を伸ばし受注しようと懸命だが、国際
入札の壁があってなかなか受注できない状況にあった。しかし日本の公営企業体(地方自治体)が民
間とコンソーシアムを組織すれば信用度が増して受注する機会が増えるかもしれない。しかし、ビジ
ネスだからリスクは付きもの。そのリスクをどうやって軽減するかが課題だ。損したらどうしようと
いう後ろ向きの議論ではなく、前向きの議論をしていけばリスクは軽減できるというのが私の考え方
だ。
―厚生労働省の委託を受けてベトナム、カンボジアでセミナーを開催されていますが。
御園 このセミナーは民間企業が海外に進出しやすいようにすることを第一に考えて行っている。
相手国の水道関係者のリーダーたちとディスカッションをしたり、日本企業が持つ優秀な技術を紹介
して、少しでもビジネスチャンスにつなげたいと思っている。海外で受注するには現地法人と交流を
図り、人脈づくりをすることが大事だ。今年3月1日から5日間の日程でインドのムンバイでIWA
(国際水協会)シンポジウムを開催するが、インド全土から水道事業体の関係者400~500人が
参加するので、日本の水道技術をアピールするには絶好の機会。水は原子力や新幹線と違って地味な
ものだが、安定した収益を上げられるのでとても魅力だ。水不足で悩む新興国や途上国に安定供給で
きれば、そこに住む人たちの生活レベルも上がるだろうし、衛生的にもよくなるので世界貢献につな
がる。
―日本も含めた先進国ではボトルウォーターを飲み、水道水を飲まない人が増えています。先日、
横浜で開催したIWAのワークショップで「蛇口回帰」をアピールされていましたが。
御園 水道は蛇口から水を飲むために近代水道が敷かれた。安心・安全な水にも関わらず、水道水
を飲まなくなっている。確かに都市の水道は原水が汚染された経緯があり、カルキ臭やカビの臭いが
して、東京都内で30%しか水道水を飲まないという時代があった。我々も危機感があり、高度処理を
積極的に導入したことで、おいしい良質の水道水を供給できるようになったが、未だ誤解されている
部分がある。
―「蛇口回帰」のキャンペーンは、ボトルメーカーなどから反発はないのですか。
御園 我々はボトルウォーターを飲むなと言っているのではない。安全面からいっても、51項目チ
ェックしているので、水道水の方が極めて安全だと確信している。ボトルウォーターは20数項目しか
チェックしていないので、不安は払拭できない。いま我々は「水道水を飲もう!」と全国にPRして
いるが、ボトルウォーターはおいしいという観念が植えつけられているので、なかなか浸透していか
ない。由々しき問題だと思っている。
―東京都はおいしい水を提供するため、高層ビルにも地下からダイレクトに給水しているようです
が。
御園 これまでは圧送能力の関係で、せいぜいビルの3階くらいまでしか給水できなかったが、増
圧ポンプを設置すれば高層ビルでもダイレクト給水はОKだ。これまでは屋上の受水タンクから送ら
れ、夏場は温められて生ぬるい水が蛇口から出てきた。都内の小学校では東京都の負担で地下からダ
イレクトに給水できるようにしたので、夏場でも冷たい水が飲めるようになった。「蛇口回帰」は今
後も積極的にPRするが、まだまだ水道水は誤解されている面があるので、常にアピールする必要が
あると考えている。