インタビュー

2011/04/15

土木学会 阪田憲次会長インタビュー

◎土木学会 阪田憲次会長インタビュー



 すさまじい破壊力で人やあらゆる構造物を押し流した巨大津波。原発事故を含め誰もが予想しなか

った「想定外」の大震災だった。被害調査にあたった土木学会など学会関係者に途方もない課題が突

き付けられている。被災地は広範囲にわたり瓦礫が山積するなかで、復興の足音が聞こえる。しかし、

国は震災から1カ月以上経った今も復興への道を描けないでいる。そこで自ら被災地に入り、不休で

調査をした土木学会の阪田憲次会長にインタビューをし、現在の心境を語ってもらった。

   ◇

 ―被災地で調査をされて、どのように感じとられましたか。

 阪田 被災地はまさに想像を絶するような状態でした。ヘリコプターに乗って空から被災状況を見

ましたし、船に乗って港の損壊状態も見ました。瓦礫の中を歩いて調査もしました。調査は広範囲に

わたりましたが、津波の恐ろしさをまざまざと見せ付けられました。まさに黙示録の世界を思わせる

ような光景でした。

 ―国の復旧・復興がこれから本格化しますが、今回の調査は国に提言するための調査だったのです

か。

 阪田 いや、そうではありません。土木学会として被害の全容を俯瞰的に把握するための第1次調

査です。我々は阪神・淡路大震災以来、いろいろと対策を練ってきました。今回の地震で構造物がど

の程度壊れ、そして耐えたか。津波がどのくらいの力で破壊したかなどをつぶさに調査しました。今

後30年の間に発生すると予測される東海・東南海・南海連動型地震に対して十分な備えをするために

も調査は不可欠なものでした。

 ―調査をされて一番、印象に残ったことは。

 阪田 今回の地震の最大の特徴は津波です。しかも広範囲にわたって甚大な被害が出ています。ヘ

リコプターで被災地を一周するだけで2時間余りかかりました。いかに被害が広範囲に及んでいるか、

改めて事の重大さに身が震えるような思いでした。今回、最も問題なのは、やはり福島第1原発の事

故です。阪神大震災のときは発災から3週間後には落ち着きを取り戻しましたが、原発事故が復興を

妨げています。とくに原発から30km範囲の地域は復旧どころではありません。

 ―津波に関して言えば、想定以上のものが襲ったため、甚大な被害をもたらしたと思います。それ

についてはどのような見解をお持ちですか。

 阪田 我々、専門家は「想定外」という言葉はあまり使いたくないのが本音です。確かに想定外の

力がかかったのは事実です。だから津波が防潮堤を越えて押し寄せ、人命が失われたのです。これま

で我々は想定以上の地震、津波が襲って来ても、それに耐えられる構造物を設計し造ってきました。

しかし、今回は我々の想定を遥かに超えた、すごい破壊力でした。「安全というものに対し、想定外

はない」とある月刊誌に書いてありましたが、まさしくそうだと思います。

 ―国の「復興構想会議」が発足しましたが、その会議に提言されるのですか。

 阪田 国土交通省からいろいろと提言して欲しいと言われています。できるだけ早い段階で提言を

まとめたいと思っていますが、そんなに早くまとまるものではありません。復興は国から一律的なも

のを押し付けるのではなく、被災した住民たちの意見を汲み上げる必要があります。国主導でやるべ

きことですが、霞が関が中心ではなく、国の出先機関、いわゆる地方整備局が主導すべきです。被災

地が広範囲であり、しかも多岐にわたっていますので、地域を熟知している地方整備局の方がいいの

です。中央省庁と連携し合い、復旧・復興に全力を挙げるべきです。実際に我々は被災地に入り、被

災した人や首長さんたちに会い、多くの意見をもらいました。だからこそ住民の心情を汲み入れて復

興計画を作るべきです。私は「オーダーメイドの復興計画」と呼んでいます。手間はかかるかもしれ

ませんが、それがかえって早く復興へとつながるのです。

 ―土木学会として、まず取り組まなければならない課題は。

 阪田 我々は専門家集団ですので復旧・復興に力を発揮し、主要な役割を果たしていきたいと思っ

ています。津波についてはハード、ソフトを含め、しっかりとした対策をしていきたい。土木学会と

しても大きな課題の1つです。震災前に南三陸町の町長が4階建ての町営住宅を造り批判されたそう

です。しかし、そこに避難した人たちは全員助かっているんです。一見、ムダと思われるような施設

が人の命を助けたのです。山間部にあるスポーツアリーナは避難場所として重要な役割を果たしてい

ます。海岸から離れた三陸縦貫自動車道(仙台市~岩手県宮古市)は整備途中で全線が開通するには

まだ時間がかかりそうですが、復興においても重要な幹線道路になるでしょう。昨年、事業仕分けの

議論がされた高規格幹線道路だそうですが、今後は重要な大動脈となるでしょう。道路の費用対効果、

いわゆるB/Cの数字(1以下は見直し検討)だけで判断、評価するのでなく、数値に表れないファ

クターみたいなものを今後、織り込む必要があると思います。

 ―完全に復興するには、どのくらいかかると思いますか。

 阪田 何年とは一言では言えませんが、おそらく完全復興には長い時間がかかると思います。一日

も早い復興に向けて、土木学会としての使命を果たせるよう努力していきたいと考えています。


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