インタビュー

2011/08/08

シンガポール大使館 チュア一等書記官インタビュー

◎シンガポール大使館 チュア一等書記官 インタビュー



 中東やインド、東南アジアなどの第3国へ進出するときの活動拠点にシンガポールを選ぶ日系企業が

増えている。日系企業だけでなく、中国、インドを加えると1万5000社以上の多国籍企業が世界

中から集まっている。東京23区とほぼ同じ広さのシンガポールになぜ外国企業が集中するのか。シン

ガポール共和国一等書記官、チュア・イァク・フア氏に現状と課題について聞いた。

   ◇

 ―日系企業を含めた世界中の企業が中東、インド、東南アジアなどに進出するときにシンガポール

に拠点を構えるのはなぜでしょうか。

 チュア シンガポールは製造業を中心に外国の多国籍企業を誘致し、発展を遂げた経緯があります。

多国籍企業はシンガポールの安価な労働力を使い、中国、インド、東南アジア攻略へ向けて前進基地

的な拠点を構えました。そこからシンガポールの発展が始まったのです。1970~80年代は集約

型の産業が多く集まり、さらに90年代になると、それらの企業は統括本部を置くようになりました。

それは、シンガポールの周辺国にも多国籍企業が進出し拠点を構えた中、とりわけシンガポールが重

要で有力な拠点として台頭したからです。


 ―シンガポールに拠点を構える最大のメリットは?

チュア ビジネス環境が整っているからだと思います。空路、航路、陸路のアクセスがいいので、中

国、中東、東南アジアといった第3国へ進出できるのです。その高い利便性から多くの外国企業が活

動拠点にするのです。しかも英語など多言語を話す優秀な人材が多く集まっています。このような人

材を雇用し、第3国で多用できるのもシンガポールの強みです。また、シンガポールに拠点を置けば

法人税などが比較的に安くて済むので、さらに周辺国に再投資することも可能です。外資を取り込み、

海外展開の拠点にするにはシンガポールは最適な場所であると自負しています。

 また国際条約が多くあることも外国企業に有利に働いています。シンガポールの自由貿易協定を利

用すれば、シンガポールから相手国へ輸出する際、関税率は低くなります。租税条約が締結されてい

る相手国の居住者に配当や利子など支払う場合には、それに基づく軽減税率が適用されます。また投

資国で国有化などのトラブルが起きたときでも投資保証条約の下で紛争解決が生み出せますので、外

国企業にとってこれらの条約は心強い味方といえます。


 ―シンガポールには、なぜ優秀な人材が集まると思いますか。

 チュア 国際ビジネス都市として発展するためには優秀な人材を獲得しなければいけませんが、良

い就業機会と居住環境が必要です。英語が通じ、町がきれいで、安全で生活水準が高いことだけでな

く、政府として娯楽やライフスタイル・オプションを充実にすることにも力を入れています。シンガ

ポールは資源が少ないので、経済発展させるためには人的資本を豊かにする。それも重要な戦略の1

つなので、優秀な人材が世界中から集まるのです。


 ―シンガポールには世界でも有数な水処理企業、ハイフラックスがありますが、こういった現地企

業と合弁会社を設立し、第3国へ進出した方がいいのか、それとも単体で進出した方がいいのか、ど

ちらを選択した方がいいのでしょうか。

 チュア それはやはり事業をやる上でメリットがあるかどうかによると思います。現地法人と合弁

会社をつくるのか、ただ単にパートナーシップ的な契約を結ぶのか、そのビジネスモデルによって異

なると思います。例えば、ハイフラックスといった現地企業と補完的な関係をつくり、日本企業が部

品を提供し、現地企業がプロジェクトマネジメントなどをするということにすればトータルソリュー

ションが生まれ、第3国への入札に応募することができます。ただ、第3国へ進出するには、その国

の特徴をうまく掴んで売り込まなければなりません。シンガポールの現地企業はそういったノウハウ

を持っていますし、研究もしているので成功率は高いです。


 ―シンガポールに拠点を持つ日系企業はどういった形態が多いのですか。

 チュア シンガポールには現在、7000社に及ぶ多国籍企業があります。この7000社のほか

に中国企業が約3500社、インド企業が4000社ほどあります。シンガポールは東京23区とほぼ

同じ広さの面積なので、まさにひしめいていると言っても過言ではありません。それだけに企業間で

のビジネス交流が盛んです。これがシンガポールの特徴でもあるのです。それぞれの外国企業がそれ

ぞれの現地企業とパートナーシップを組んだりする。その形態はさまざまですが、日系企業と現地企

業が合弁会社を設立し、さらに複数の企業とコンソーシアムを組成して第3国に売り込むということ

もあります。東南アジア、オセアニア、インド、中東、さらにアフリカまでグローバルに展開してい

ます。


 ―日本企業に対してどのような印象をお持ちですか。

 チュア さまざまな分野で高い技術を持っている、というのがまず印象にありますが、途上国や新

興国でその技術をいかに使ってもらえるかということが今後ビジネスを展開する上で重要なポイント

になってくると思います。グローバル経済の中ではサービスも1つのビジネスなのでハードだけでな

く、ソフト部分でビジネスモデルを構築しなければなりません。そのためにはシンガポールの現地企

業とパートナーシップを組み、自社製品のプレゼンスを世界市場に高めていくことが重要だと考えま

す。

 いま途上国や新興国に日本で売れているものを売り込んでもニーズが異なるかもしれません。ニー

ズに応えるためには現地の消費者動向をきちっと捉え、商品開発することです。シンガポールではア

ジアの人々がいま何を欲しているのか、それを理解した上で商品開発しています。いま途上国や新興

国で求められているのは単に日本のような高い技術ではありません。問題点を明示し、それを実際に

解決する施策を提供するソリューションです。このソリューションを提供することが最も重要なこと

なのです。


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