土井横浜市水道局長インタビュー
◎土井横浜市水道局長インタビュー
横浜市水道局が進めていた川井浄水場の更新工事がこのほど完成し、新たに膜ろ過方式の「川井浄
水場 セラロッカ」が誕生した。横浜市水道局が日本で初めて浄水場施設全体の更新と運営・管理に
PFI方式を導入し、民間による運営・管理が4月1日から実施されていることも話題になっている。
横浜市水道局の土井一成局長に今後の運営等について聞いた。
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――国内最大規模の膜ろ過方式の「川井浄水場 セラロッカ」の更新工事が完成し、4月1日から運
用開始されています。まずご感想からお聞かせください。
土井 横浜市は日本の近代水道創設の地といわれ、最初に整備されたのが明治20年に完成しました
野毛山浄水場です。相模川上流から野毛山浄水場までの距離は約44??に及び旧導水管で水を運びま
した。そこから外国人居留地など横浜の中心部に給水を開始しました。その時の給水人口は7万人、
1日の最大給水量は5720立方?でした。
創設後改良され、地形の高低差を利用し電力を使わない自然流下で水を浄水場まで運んでいます。
明治34年の第1回拡張工事により川井浄水場が整備され、それ以降、西谷、鶴ケ峰、小雀の3浄水場
を整備しました。昭和37年に川井浄水場は一度更新しましたが、老朽化が進み耐震性にも問題があっ
たことから、全面改修が必要となり、平成21年に再整備に着手しました。恵まれた施設配置の立地条
件の中で再整備を行い、最新の技術を取り入れ、処理能力が172,800立方?の日本最大規模の膜
ろ過方式の浄水場が完成しました。日本で初めて浄水場施設全体の更新と運営・管理をPFI方式で
実施するという新たな手法も取り入れています。まさに過去から未来につながる浄水施設であり、歴
史をリレーできたという思いで非常に感慨深いものがあります。
――メタウォーターのセラミック膜ろ過方式を採用された理由は?
土井 旧川井、西谷、小雀の3浄水場は砂ろ過方式を採用してきましたが、水道局としては膜ろ過方
式に以前から興味を持っていました。公益財団法人・水道技術研究センターが大規模浄水場への膜ろ
過方式の適用について研究・調査するため「e-Waterプロジェクト」を2003年4月から2年間か
けて実施しました。その研究・調査に使ってもらうため、川井浄水場のフィールドを提供しました。
この段階から我々は膜ろ過方式の採用の可能性を探ってきました。旧浄水場を稼働させたまま、限ら
れた敷地内で新たな水処理施設を構築するには省スペース性に優れ、単位面積当たりでより多くの処
理ができる膜ろ過方式が最適と考え、民間から事業者を公募した結果、メタウォーターグループの企
業提案を採用しました。
――川井浄水場が再整備され、旧浄水場より能力がアップしていると思いますが、市民サービスの向
上につながっているのでしょうか。
土井 浄水処理能力の増加に伴い、給水区域も拡大しました。旧浄水場の処理能力は約10万?でし
たが、再整備後は約17万?にアップし、給水戸数も約19万戸から約31万戸に拡大しました。横浜市全
体の給水戸数は約177万戸ですので、川井浄水場からの給水戸数は、更新前は全体の11%でしたが、
更新後は18%に増えます。
山梨県の道志川の河川水を水源とし、電力を使わず自然流下で川井浄水場へ送られていますので、停
電が発生しても給水が止まることはありません。地震など災害時でも給水が確保できるので、市民生
活のサービスにつながると思います。
――膜ろ過方式のメリット、デメリットについてお聞かせください。
土井 膜ろ過方式のメリットとしては?微小物質の不純物や濁りの確実な除去?安定した高度な処
理水質?場所をとらない省スペース化?凝集剤が少量で十分-などです。
デメリットとしては、圧力が必要でありポンプに多くの電力を使うことや、濁度の高い原水だと膜が
すぐに目詰まりを起こしてしまうことがあげられます。また、有機物は薬品で洗浄しなければなりま
せん。このため、筒内をかなり洗浄しないと効率が悪くなる恐れがあります。先にも言いましたが、
道志川との地形の高低差を利用したエネルギーによる圧力で膜ろ過を行うことが可能であり、水源か
ら浄水まで電力をほとんど使っておりません。また、道志川の水質が安定しており清浄であることか
ら目詰まりの心配もありません。
このため、一般的な膜ろ過のデメリットをかなり克服できるシステムを構築できたといえます。
――今後20年間、ウォーターネクスト横浜?が施設全体の運営・管理を、PFI方式で実施していま
すが、横浜水道局の役割は?
土井 横浜市水道局が約百年前から道志川の上流に有する水源かん養林を維持管理し、水源から川
井浄水場まで良質な水を運ぶことがわれわれの役割です。また、ウォーターネクスト横浜?がきれい
に処理した水を各家庭に確実に給水するのも我々の仕事であり、責務でもあります。このため、両者
がしっかりと連携することが重要であり、チームプレーができないと市民にご迷惑をおかけする恐れ
があります。
PFI事業において、サービスの質を維持していくためには、事業期間中の適切なモニタリングが
欠かせません。事業者が行った内容が水道局が求める要求水準を満たしているか、また業務の安定性、
継続性が確保されているかなど、継続的な監視や協議が大切です。官民が適切な役割分担することで、
良質な公共サービスが提供できると思っています。