国土交通省 水管理・国土保全局長 金尾健司氏インタビュー
国土交通省は関東・東北豪雨災害を踏まえた治水対策を進めるため、社会資本整備審議会からの答申を受けて「水防災意識社会 再構築ビジョン」を策定した。全ての直轄河川とその沿川市町村109水系・730市町村において、2020年度をめどに必要なハード・ソフト対策を進める。金尾健司水管理・国土保全局長に取り組みの狙いを聞いた。
関東・東北豪雨では鬼怒川の堤防が決壊し大規模な被害が発生した。金尾局長は「今回の記録的な大雨では施設の能力を超える洪水が生じた。今後は気候変動の影響で同じような水害が発生する恐れがますます高まると懸念している。社会資本整備審議会からの答申のキーワードは『水防災意識社会』を再構築すること。施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するというように意識を変革し、社会全体で洪水に備える必要がある」と話す。
ソフト対策としては「まずは水害のリスクを評価することが大事で、そのリスクを皆で共有した上で対策を検討することになる。ハザードマップは行政目線から住民目線に変えるための改善を行う。市町村向けには事前行動計画となるタイムラインの策定を進め、併せて首長も参加した訓練の実施を考えている。来年の出水期までにできる対策はやりたい」とする。
ハード対策では「今回のように堤防の越水があっても、なるべく長時間決壊せずに持ちこたえる構造の工夫を行うことで、スムーズな避難ができるようになる。ソフトと一体で考える『危機管理型ハード対策』として、越水の可能性が高い堤防の天端をアスファルトで舗装し、堤防の法尻をブロックで補強することで、越水しても破堤までの時間を少しでも稼ぐことができる。全国で約1800㎞あるが5年間で進めたい。また、12年7月の九州北部豪雨を踏まえた堤防の緊急対策を重点的に行う箇所がまだ1200㎞残っているため、これも5年間でしっかり進める」との見通しを示す。
5年間のハード対策費には約8000億円を見込む。金尾局長は「通常の堤防工事が多いため、なるべく地元業者も活躍できる形で進めていけるのではないか」と考えている。補正予算での対応も検討しており、具体的な整備箇所は今後選定していく見通しだ。
かなお・けんじ
1958年5月生まれ。京都府出身。1983年東大大学院工学系研究科(土木)修了、建設省採用。関東地方整備局企画部長、水管理・国土保全局河川環境課長、同局河川計画課長、九州地方整備局長を経て2015年7月31日より現職。