インタビュー

2015
2015/12/19
国土交通省 水管理・国土保全局長 金尾健司氏インタビュー
2015/11/26
東日本建設業保証(株) 三澤社長インタビュー
2015/10/29
国土交通省 菊地身智雄港湾局長就任インタビュー
2015/10/27
足立敏之氏インタビュー
2015/10/15
全国仮設安全事業協同組合 小野理事長インタビュー
2015/10/03
(財)建設業振興基金 内田理事長インタビュー
2015/10/02
国土交通省 毛利信二総合政策局長就任インタビュー
2015/09/25
国土交通省 森昌文道路局長就任インタビュー
2015/09/17
国土交通省 五道仁美大臣官房技術調査課長就任インタビュー
2015/09/15
国土交通省 由木住宅局長インタビュー
2015/09/15
国土交通省 池田豊人大臣官房技術審議官就任インタビュー
2015/09/10
国土交通省 西脇隆俊国土交通審議官就任インタビュー
2015/09/08
国土交通省 海堀安喜建流審就任インタビュー
2015/09/05
国土交通省 池内幸司技監就任インタビュー
2015/09/04
国土交通省 古川陽大臣官房地方課長就任インタビュー
2015/09/03
国土交通省 木村実建設市場整備課長就任インタビュー
2015/08/29
国土交通省 徳山事務次官就任インタビュー
2015/08/07
東京建設業協会 松村専務インタビュー
2015/08/07
(社)日本測量協会 杉森女性技術力向上委員長インタビュー
2015/08/07
(社)日本建設業連合会 生亀新専務インタビュー
2015/07/25
(社)日本建設業連合会 清水災害対策委員長インタビュー
2015/07/25
(社)日本建設業連合会 奥村建築技術委員長インタビュー
2015/07/23
(社)日本建設業連合会 土屋公共積算委員長インタビュー
2015/07/23
(社)日本建設業連合会 淺沼公衆災害対策委員長インタビュー
2015/07/10
大臣官房審議官 木暮康二氏インタビュー
2015/06/27
東日本建設業保証・三澤社長がインタビュー
2015/05/15
建設業福祉共済団・茂木新理事長が就任インタビュー
2015/04/25
西村国交副大臣インタビュー「これからが復興の山場」
2015/02/20
ファサディエ会佐藤新会長インタビュー
2015/01/23
今なぜ女性活用?厚労省小林氏インタビュー
2015/01/21
太田大臣インタビュー「建設業は日本守る担い手」
2015/01/06
東京水道サービス㈱ 増子敦社長インタビュー
2015/01/06
国交省、大澤祐一地籍整備課長インタビュー
2015/01/06
佐々木基国土交通審議官インタビュー
2015/01/06
国交省、塩路勝久下水道部長インタビュー
2015/01/06

東京水道サービス㈱ 増子敦社長インタビュー

東京水道サービス株式会社(ТSS)は、ミャンマー・ヤンゴン市で無収水対策事業に今年から本格的に着手した。ヤンゴン市の水道の改善を目的とした事業で、同社をはじめ東京都水道局、三井物産、東洋エンジニアリングで日本コンソーシアムを形成し、水道を通じて国際貢献することが目標だ。日本の政府開発援助、ОDAを用いて支援されているが、日本の自治体が参入するのは初めてで、日本全国から注目されている。長い間、この計画に携わってきた東京水道サービスの増子敦社長に、契約に至るまでの経緯とヤンゴン市での無収水対策事業についてインタビューした。

                ◇ 

                    

――ミャンマーのヤンゴン市で無収水対策事業に着手されていますが、まずは所感からお聞かせください。

増子 ヤンゴン市での無収水低減プロジェクトは、2012年から現地の水道局職員の技術力向上のため、研修やセミナーを行って来ました。今回の事業の契約でようやくスタートラインに立つことができたと言えます。

当社は昨年9月に東京都水道局、東洋エンジニアリング、三井物産と共同で、ミャンマー連邦共和国ヤンゴン市開発委員会とヤンゴン市の水道事業の改善を目的とした覚書を締結しました。今回の契約はこの覚書に基づき日本の政府開発援助、ODA(JICAの資金)を用いて支援するものです。

我々はヤンゴン市の水道技術の向上と、ヤンゴン市で安心・安全な水が提供できることを目標にしております。今回、実務的なプロジェクトに参入できたことは嬉しい限りです。

――いつから事業着手をされ、いつまでに終了させるのですか?

 増子 昨年10月20日に契約し、現地の詳細な調査に続きこの1月から本格的に事業を行います。資器材も運ばれ、既に増圧ポンプや流量計を設置し、これから管の漏水箇所を見つけ、管の取り替えを実施していきます。終了は今年度末の予定です。当社の職員5名が現地入りしており、極めて厳しい環境の中で頑張っています。

今回の事業は、品質の高い日本の資器材と東京の技術とノウハウを活用して、無収水率が下がったことを実証するためのパイロット事業です。エリアは広くありませんが、無収水率を大きく下げて成果を出せば、次の事業に結びつき、もっとエリアを拡大できると思っています。

今、発展途上国で一番、困っていることは「水」です。量の不足と安全な水が得られないということです。その原因として無収水率が多いことが挙げられます。無収水とは、漏水やメータの不具合などにより水道料金収入にならない水のことです。

ヤンゴン市の無収水率は66%です。東京都は3%ですので、ミャンマーはいかに無収水率が高いかが分かります。配った水の3分2が水道料金として回収できていないのです。

ミャンマーに限らず、多くの途上国は水源も浄水場も不足しています。浄水場を造るにもお金がないのです。そのため、漏水で水が無駄になることと水道料金を回収できないことは大きな問題となっています。

水道管は老朽化し、水圧がありません。水圧をかけると水がさらに漏れてしまうので、なるべく水圧をかけないようにしているのです。それと、水源や浄水場が足りないため、なるべく低い圧力で水を配っているのです。

そうすると、蛇口から出る水の量が少ないため、ポンプで水を吸うお客さまが出てきます。ポンプで水を吸うと、水道管の圧力がさらに下がってしまうので、水道管の漏水している箇所から逆に外部の汚染された水が管の中に入り込んでしまいます。そのため安全で衛生的な水が飲めません。浄水場の水は飲める場合でも、蛇口では飲めないという国は少なくありません。無収水対策は、水道の一番の課題になっています。

 もともと水道は、衛生改善のために敷設しますが、一部の途上国では残念ながら水道自体が健康を害する原因になっている側面があり、残念で仕方がありません。ミャンマーでは浄水場が不足していますので、浄水処理をしていない溜め池の水と浄水場から出た水をブレンドして各家庭に配っています。水道水には塩素が入っていません。しかも水が漏れている箇所から、汚染された外の水が管の中に入ってしまい、蛇口から出る水は飲めません。しかし、その水を子どもたちがなんらかの形で飲んで病気になったり、亡くなることもあると思います。ミャンマーの乳児死亡率は東南アジア平均の3倍にもなっています。このような社会を水道を通じて何とか改善したい、それが我々の目標であります。

――東京水道の無収水率は3%と世界に誇るべき数字だと思います。途上国でその技術をもっと生かすべきと思いますが。  

 増子 無収水率が低いのは、長年、我々が水道を着実に維持管理してきたことの結果であると思います。水道管が古くなったら入れ替えますし、給水管は全てステンレス管に取り替えています。水道メータも高性能ですし、メータ周りの配管の管理も厳格ですので盗水もありません。その結果、無収水率が3%になっているのです。

 ミャンマーでは、古い水道管を入れ替えるなどの技術を学んでもらうため、ヤンゴン市水道局職員への研修やセミナーを行ってきましたが、それだけでは十分な改善にはつながりません。水道局職員が実際の維持管理技術を含めたトータルな技術力を身に着けることで初めて水道の改善ができるのです。我々が全てやってしまうのではなく、ヤンゴン市と一緒になって共同作業を行い、水道の改善に努めることが正しいやり方だと思います。漏水の見つけ方を学び、そしてそれを修繕する。効率的に老朽管を確実な施工方法で更新する。こうした修繕や更新の仕方を学べば、ミャンマーの水道は格段にレベルアップしていきます。

 ――今回、参入されたプロジェクトの特徴は?

 増子 今回は日本製の資器材を使用することが特徴だと思います。今、取り付けられているヤンゴン市の水道メータは中国製が多いらしく、1~2年でダメになってしまうものもあるといいます。日本製の水道メータを取り付け、そして日本製の管材料や漏水発見器を使用します。これら日本の優れた資器材を現地に搬入して市と共同で水道の改善を図るというのが、今回のプロジェクトの特徴です。

 我々に対するヤンゴン市の期待は大きいと感じています。ミャンマーは長い間、軍政が続きましたが、民主化されて水道の改善を緊急に進めたいと言い、日本の技術力がぜひ必要だと言ってくれました。

現在、ミャンマーで最も不足しているのは電力と水です。日本企業がミャンマーに進出しても、電力と水がないと安定した稼働はできません。

 日本が主導的立場をとって開発を進めてきたティラワ工業団地では、利用する水は当面周辺の溜め池の水で賄えますが、それだけではとても足りません。ヤンゴン市の浄水場を拡張して、そこから安定的に送水する必要があります。是非我々の技術でこれに貢献したいと考えています。

 ――今回のプロジェクトは国際貢献なのか、それとも水ビジネスとして参入されているのか。

 増子 確かに我々は水ビジネスという言葉を使いますけど、基本はODAによる都市間外交です。ですので、東京水道グループは決して海外で利益を上げようとは思っていません。我々が目標とするところは、その国の水道を改善すること、もう1つは日本企業の海外進出を後押しすることです。ただ、東京水道グループが赤字を出してまで海外で事業を行うわけにはいきません。当然の対価として必要な費用はいただきます。

日本企業は優秀ですが単独で海外に進出するのは難しい状況です。水道は総合技術です。我々と連携して受注できるような形、いわゆる官民連携で海外に進出することが効果的だと思っています。日本のODAなのに、海外企業に仕事を持って行かれるという流れに歯止めをかけたいと思っています。日本企業に利益がもたらされ、その国の水道も改善されるWin-Winの関係が大切だと思っています。

――「さらに安全でおいしい水道水づくり」を今後も目指されると思いますが、将来ビジョンについて、お聞かせください。

増子 我々、東京水道がこれまでやってきたことは、世界一の水準なんですね。それだけ丁寧に施設を整備し、維持管理をしてきました。高度浄水処理や管路の取り替えもどんどん進めてきました。水道の圧力も高いので蛇口からは勢いよく水が出ます。貯水槽は使わず直結で高いビルでも水が出るシステムは、省エネと安全性の面で注目されています。ただ、その素晴らしいシステムがお客さまにあまり理解されていないようです。そこを何とかご理解していただけるようPRしていきたいと考えています。

一昨年、都内で約6万人の方々に水道水とミネラルウォーターを飲み比べてもらいましたが、その結果は、水道水のほうが「おいしい」と答えた人がほぼ半分も占めました。そのくらい水道水はおいしくなっているのです。しかし、水道水を実際に飲んでいる人は半分だといいます。せっかく素晴らしい水道水になっているのですから都民にもっと飲んでいただけるようPRしていきたいと思っています。

 ――近年はゲリラ豪雨、台風、火山噴火など予期もしない自然災害が増えています。首都圏直下型地震も予期されていますが、防災についてお聞かせください。

 増子 一言で言いますと、地震でも水道が使えるというのが我々の最終目標です。大きな地震で水道が止まってしまうのはやむを得ないことと考えがちです。阪神・淡路大震災や東日本大震災のときも水道は止まってしまいました。阪神・淡路大震災のときは水道が使えなくて消火ができず、火災で多くの方が亡くなりました。

 しかし、水道は初期消火の役割を持っています。消火栓の水で火事を消すことができます。地震でも水道が壊れずに使えれば火事を消せて、大勢の人が助かるのです。

消防車が来なくても住民自らが消火栓にホースをつないで火事を消すことができます。東京都水道局は災害時に消火栓などから消火や応急給水を行う資器材2,600セットを区市町に配布し、自治会などで訓練も行っています。

地震の時の応急給水は、水道局や自治体だけでは限界があります。身近にある消火栓などを使って、住民自らの手で水道水を確保できるようにすることが大切です。

 災害時に水道が使える、使えないかは被害の程度や住民の生活を大きく左右します。大地震が起きても水道が使えることが我々の目標であり、そのために耐震化をどんどん進めています。これまでの大震災では管の継ぎ目部が多くの場所で抜けてしまいましたが、今は絶対に抜けないような管路が開発されていますので、この管に入れ替えています。大きな地震が起こっても水道は止まらない、一時的に止まったとしても早く復旧する、このようにお客さまに喜ばれる水道を目指してまいります。それが我々の役割だと思っています。

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