(社)全国建設業協会 全建・近藤会長インタビュー
全国建設業協会(全建)は今年で創立70周年を迎える。生産年齢人口が減少する中、働き方改革推進と生産性向上が求められ、地域建設業の役割りも再重要視されている。そこで、近藤晴貞会長に地域建設業将来展望に込めた思いと期待、全建の今後の役割り、地域建設業が抱える課題と解決策について聞いた。
■設立70周年を迎えて
1948年3月16日に全国組織の中央団体として、任意団体全国建設業協会が発足し、初代会長に安藤清太郎氏が選出され、清水建設さんのご厚意により京橋の清水ビル内に10坪程の部屋を借り、業務を開始した。55年4月1日には社会法人の許可を得て、2012年4月1日からは一般社団法人へ移行して現在に至っている。
この間70年の長い歴史の中では、昭和50年代後期の「建設冬の時代」、平成に入って「バブル崩壊」、公共事業費の縮減期、特に「コンクリートから人へ」など、それぞれ建設業界にとり苦しい時期があった。
今日では建設投資額が復調基調をたどり、公共工事設計労務単価も6年連続引き上げとなるなど業界環境も最悪期を脱し改善の兆しが見えてきている。
今建設業界、特に地域建設業界は大きな転換期に立っていると考えている。これからも地域建設業がその役割を果たして行くためにも「担い手確保」、そのための「働き方改革」、「生産性向上」に向け、地域建設業界は機敏かつ果敢にチャレンジしなければならない。
全建はこれからも各都道府県協会はじめ、国、都道府県等の行政等の関係先ともしっかり連携しながら、こうした地域建設業の前向きな取り組みが着実に進展できるよう環境整備に努めていく必要があると改めて認識している。
さらに広報にはもっと力強く取り組む必要があると思っており、特に災害対応をはじめとする社会貢献への取り組みでは、建設業の存在感を更に高めるために、もっと表に出してPRしていいのではないかと思う。
■地域建設業将来展望に込めた思いと期待は
70周年を契機として過去だけではなく、地域建設業のこれからを考えたビジョンを取りまとめようと考え、今回将来展望をまとめることとした。今まさに地域建設業は大転換期に立たされている。
第1は生産年齢人口の減少。地域建設業を取り巻く環境を見た時、わが国人口の減少という大転換期が既に始まっており、これは地域建設業に対しても大転換期を迫るものとなっている。
若者、生産年齢人口が減少する中で、産業間では熾烈な人材獲得競争が既に始まっており、建設業就業者の高齢化の危機的な進行状況を見た時、働き方改革を進め、明日の建設業の担い手を確保していくことは、地域建設業が生き残るための絶対的な必要条件といえる。そのためには危機というべき激動の大転換期を受動的な対応ではなく、自ら変革の好機に変えるべく積極的にチャレンジしながら、地域建設業の魅力を発信し、担い手の確保・育成を図り、さまざまな分野で期待される役割を果たしていくことにより、地域建設業の新時代を切り拓き築いていくことが求められる。
大転換の第2は、第4次産業革命の進展が地域建設業にも大きな影響を与えること。
IOT等の情報通信技術の発展がもたらす第4次産業革命のうねりは、地域建設業に対しても大転換期をせまるものであり、全ての建設生産プロセスでITC等を賢く活用し、生産性を高め、強みを生かした経営をしていくことが求められている。
こうした2つの大きな時代の変化要因の中で、地域建設業が生き残り、地場で活躍を続けるためには、強固な経営基盤を確立することが条件であり、将来展望ではこれらの環境を整備し、サポートしていくための施策を示している。
会員企業の皆さんの将来の羅針盤として、また発注者と関係者の皆さんにも地域建設業が今どう変わろうとしているのかを知っていただくための対外的メッセージとしてもまとめたものなので、ぜひご一読いただきたい。またご意見ご感想も寄せていただければ幸いです。
■全建の今後の役割は
全建の役割は、各都道府県建設業協会とともに、まだ各協会をしっかりサポートしながら会員たる地域建設企業が自らの役割りを今後も果たして行ける環境を整備することであると考えている。
まず、政府、政界、経済界、マスコミ、学会等とのパイプを太く強いものとすることで、発言力・発信力を強固にし、特に各都道府県建設業協会単独では取り組みが難しい地域建設業に対する重要テーマについて全建として取り組んでいく。
また地域間の格差、企業間の格差等の状況や、発注機関の入札契約状況、地域建設業における働き方改革や生産性向上の取り組み状況等、地域建設業を取り巻く全国的な状況を詳細に把握し、データに基づく効果的かつ説得力のある活動を展開していく必要があると思う。
さらに全権が持つさまざまな建設関係団体と本部等とのパイプを生かし、それぞれの強み、得意分野を引き出すことで、都道府県建設業協会、会員企業が活動しやすい環境整備に取り組んでいきたい。
地域建設業の魅力ある姿や社会資本整備の必要性に関する積極広報も全建としては重要になる。
建設業界に対して、未だ従来からの3Kイメージ(きつい、きたない、きけん)から新3K(給料が良く、休暇がとれ、希望が持てる)のイメージの定着が図れるようさまざまな改革の様子などもアピールしていく必要がある。また、社会資本整備の必要性、ストック効果等について、効果的な広報展開を図り、地域建設業に対する良き理解者を増やしていくべきだ。
■地域建設業が抱える課題と解決策について
現在、建設産業の担い手確保・育成に向けて、長時間労働の是正や週休2日制の導入など、政府をあげて取り組んでいる働き方改革を加速化していくことが、地域建設業界の喫緊の課題となっている。
また国土交通省が推進するi-Constructionについては、本年が「深化の年」と位置付けられているとともに、建設現場の生産性2割向上を目指して、さまざまな取り組みを更に 強化することとしており、生産年齢人口が減少する今日、地域建設業としても自ら積極的に生産性向上に取り組むことが必要となっている。
こうした働き方改革・処遇改善や生産性向上等の課題に対応していくためにも、まず地域建設企業の経営がしっかりとしたものにとなっていることが何より必要。建設投資の偏りにより、首都圏と地方圏との事業量の地域間格差や、大企業と中小建設業との企業間格差が拡大化しており、地域建設業を取り巻く環境は厳しく、政府にはまず事業量の安定的確保に取り組んでいただきたい。
また業界としても行政・発注者の皆さんの取り組みを促すだけではなく、自ら改革を進めていくことが必要。国土交通省が推進するi-Constructionの深化に対応できるよう職員の研修機会を増やし、オペレーターの教育・確保を進めることも重要になる。更にさまざまな工夫を凝らし、下請け企業も含め働き方改革を進め、魅力ある産業として将来の担い手確保を目指すためには経営者としての決断、実行力もカギとなる。
■建設キャリアアップシステムへの期待について
今年10月に運用が開始される建設キャリアアップシステムについては、登録窓口業務を担う都道府県建設業協会と連携を密にし、その周知・普及に努め、併せて技能者が保有する技能の見える化やキャリアパスの提示を推進し、自己啓発意欲の喚起や生涯を通じた効果的なキャリア形成への環境整備に努める。
全建としては、これまでシステム登録の任意性を確保するとともに、企業規模や利用頻度を考慮した利用料金とするなど地域建設企業が参加しやすいものとなるよう取り組んできた。
技能者の保有資格、社会保険加入状況等とともに就業実績を蓄積することで、処遇改善や技能の研さんに繋がる基本的なインフラとして建設キャリアアップシステムに期待している。元請けとしてもシステムを利用する中で書類作成の簡略化が図られ、社会保険加入確認が簡単になるなどのメリットが感じられるようになることを期待している。
いろいろと心配なこともあるのも事実だが、運用開始後の状況をよく見ながら必要な改善を加えていけば良いと思う。