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不調不落が増加傾向/国は精度ある設計を/聞屋の目線

2013/10/25 日本工業経済新聞(茨城版)

 工事の一般競争入札で応札者なしや全社辞退といった「不調・不落」が大震災以降にも増して増加傾向にある。本年度に入って、国土交通省関東地方整備局では7月末までに全体の2割で発生。大型補正の集中発注が不調不落に拍車をかけているようだ。県土木部や市町村でも発生傾向にある。入札に手を挙げようとしない企業や、入札途中でも辞退する企業―。その本音を探った。


 関東地方整備局では2011年度と比べ12年度に不調・不落の発生率が2・9%上昇。発注した1625件のうち231件で発生した。本年度に入ってさらに増え、7月末現在で1001件のうち発生件数は190件(19%)。大型補正の集中発注で前年度を大幅に上回る発注件数だが、不調・不落はそれ以上だ。

 建築や冷暖房、受変電設備、電気設備、維持修繕などの業種で多く発生。内訳は、応募なしが130件、不落(予定価格の超過)が48件、全社辞退(応募したが途中で辞退)が12件。

 このうち応募しない理由について、企業は「ダウンロードして資料は取りそろえるが、積算したら金額が合わない」「金額が小さい割に工期が長い」「技術者が足りない」といった点を挙げる。

 また全社辞退に該当した企業は「期間がないので一応エントリーしたが、積算したら金が合わなかった」「ほかに取りたい工事が出た」と話す。

 「応募なし」と「全社辞退」における企業の証言から共通して言えることは、〝お金が合わない〟ということ。発注者が設定した予定価格と、企業が積算した実勢価格に乖離があるということである。

    ◇     

 県でも全体的に見れば件数が少ないものの、全社辞退が発生傾向にある。前年度は2289件のうち69件と3%で不調不落が発生。本年度は8月末現在で968件のうち20件(2・1%)。

 ただ県の場合は1者応札を認めていないため(再入札では認めている)1者応札による不調を除くと、前年度が39件(1・7%)、本年度8月末が9件(0・9%)。それでも月当たりの平均割合では発生率が前年を上回っている。

 企業から話を聞くと、国との共通点が浮かび上がってくる。

 辞退する理由について企業は「まずは取れそうなところに参加申請する。その後、実行予算を組んで利益が取れないことが分かると辞退する」という。

 工事を選別する点も同様。「同じように技術者を1人張り付けるのであれば、儲けが出る方が良いに決まっている」と話す。

 県発注工事でも建築などを中心に全社辞退が目立つ。使用する資材が多い割には利益幅が少なく、また資材単価と市場単価が乖離していることが主な要因の一つと考えられる。県では、全社辞退となった設計内容を検証。参加業者に辞退した理由を聞きながら、市場と乖離した資材単価をつきとめ、見積単価に替えてより実勢に即した単価にするなどして再入札している。

 しかし、いまは技術者が各工事に張り付いている、いわばピーク状態。ある企業は「今から2カ月ほど前であればまだ良かったが、もう年度明けにならないと技術者は空かない」と話す。

    ◇     

 市町村でも、不調不落は増加傾向だ。本紙調べによれば、前年度は全44市町村(一部事務組合含む)で1万211件を発注し、そのうち不調不落は304件で3%。本年度は9月20日までに4544件を発注し、140件(3・2%)で発生している。

 そして取材する所々の企業から必ず聞こえるキーワードが、予定価格を不当に引き下げる「歩切り」である。県が国の要請で市町村へ行った2009年2月の調査(建設業における安心実現のための緊急総合対策への対応状況)では、44のうち23市町村が歩切りを行っていることが分かっている。

 ある企業は災害復旧を振り返りながら、こう話す。

 「通常の仕事でも歩切りをされて大変なのに、災害復旧でも歩切りを行う。それでは余計できない。平均で5%ぐらい切っている。場所によっては7%、10%も切っている」

 それが本当なら、完全に会社を維持する経費は出ていないだろう。だが、それでも従業員を抱えているため、会社運営を止めるわけにはいかないという。彼らは生死をかけてしのぎを削っている。

    ◇

 不調・不落への対策について、関東地方整備局の佐伯良知技術調査課長は「不調・不落の最大の原因は、お金が合わないこと。適正な設計図書の作成や、監理技術者の給与が十分出るくらいロットを大きくすることが大切」と話す。

 ただ現在は、緊急経済対策により補正予算が先に来ている中で早期に執行している。概略設計の段階でも現場が間に合わないため工事を発注するなど〝質より量〟を優先している状況だ。

 量より質とまではいかなくても、量と質がバランス良く発注されるよう、国を中心に設計図書の精度向上に取り組んでいただきたい。それとともに、単価をより実勢に近づけることが重要。市町村においては、国や県からの「歩切りは厳に慎むべき」といった要請を十分に理解すべきだろう。発注の平準化も有効と考えられる。

 いずれにせよ、企業が手を挙げたがるような工夫無くして不調・不落の対策は成り立たない。今後もこのような状況が続けば、受注したがる企業は減る一方だ。

 大震災からの復旧復興は道半ばである。なおかつ公共施設の老朽化が待った無しで進行する中、もし大規模災害が発生すれば、その被害は計り知れない。常に国民生活が脅かされていることを十分認識した上で、行政には不調不落の有効的な対策を早期に講じていただきたい。


【図=国の不調不落】

関東地方整備局の不調・不落の発生状況016180.jpg

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