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【高力ボルト不足問題】国は実態解明を急げ/的外れな対応 現場で怒り

2019/05/27 埼玉建設新聞

 高力ボルト不足問題が新たな展開を見せた。約1年待ちの納期を見かねた国土交通省は17日、水増し発注の可能性を考慮し、統一様式を活用するように建設業9団体へ要請した。しかし、この異例とも言える国の対応に、現場からは批判が相次いでいる。都内建設業者は「様式を統一しても、高力ボルトは現状で手に入らない」と憤る。国は実態を解明し、実効力と実行力のある対応が求められる。そこで建築エコノミストの森山氏へ話を聞き、現場の声と対応策に迫った。


【水増しではなく/先行的な発注だ】


 国が対応する前提となった「水増し発注」について、森山氏は「水増し発注ではなく、先行発注ではないか」と疑問を呈した。要するに納期が約1年と言われる中、1物件に対して多めに発注しているのではなく、来年の別工事分を先行的に注文している状況だ。同氏は「仮に水増し発注なら、キャンセルが出るが、そのような話は一切聞こえてこない」と話す。

 現状で1年先まで手に入らないなら、1年後の工事のために発注することは自然の流れ。また水増しした余剰分のキャンセルがない以上、水増し発注は考えにくい。つまり、先行発注の積み重ねが長引く納期の要因と言えそうだ。

 先行発注が要因とすれば、国交省の対応は的外れとなる。それを裏付けるがごとく、取材した鉄骨業者からは「全く無意味な対応」と批判の声が挙がった。さらに構造設計業者は「統一様式を使って先行発注するだけだ。問題は何一つ解決されない」と苦笑い。


【省全体で調査を/まずは数合わせ】


 森山氏は「国は発表したからには、水増し発注かどうか実態調査をするべき」と訴える。調査に当たり「本省担当官1人では到底無理な作業量。まずは各都道府県に派遣されている担当官と連携し、地域状況をきめ細かく拾う必要がある。さらに大手ゼネコンだけでも現状報告の要請をすれば、現状からは多少落ち着くのでは」と語る。

 水増し発注かどうかを確かめるには、どう調査すればいいのだろうか。同氏は「建設予定の物件数と高力ボルトの発注数を照合すれば分かる」と解説。建設予定の物件数は確認申請から追える。そして物件数のうち面積規模から鉄骨造を抽出し、坪当たり何トン使うかを把握。ボルト数と照合すれば分かる流れだ。


【社会認知高まる/現場の声聞いて】


 高力ボルト不足が一般紙やテレビなどでついに報道され、社会認知が高まりつつある。しかし内容は、国が発表した”水増し発注”という印象が強く残るものばかり。だからこそ現場の声を聞き、本当の要因を把握する必要がある。国、協会、大手ゼネコンが速やかな実態調査に乗り出し、正確な情報を収集・公表しなければならない。

 建設業界や現場などの混乱を一刻でも早く収束させるため、実効力と実行力のある対策を具体的かつ早急に打ち出すことを期待する。

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