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栃木県小山市

小山市、排水強化対策、杣井木流域で3案、輪中堤、宅地嵩上げ、集団移転を協議

2020/12/18 日本工業経済新聞(栃木版)

 小山市は、2015年の関東・東北豪雨で大規模浸水被害に遭った1級河川杣井木川流域住民に①輪中堤(一部擁壁)整備②宅地嵩上げや擁壁設置③集団移転-の3事業を提案した。押切、下泉、中里の3地区約60戸の住民に対し、3案の利点と課題を示した上で地区ごとに地元検討組織を立ち上げることを要請。3案を軸に地区ごとに最もふさわしい排水強化対策事業を絞り込む。市は自治会の求めに応じ、説明や助言の形でサポートする。流域住民の合意形成が得られ次第、事業化する。

 市は関東・東北豪雨災害の教訓を踏まえ、杣井木川周辺の宅地が再度災害に見舞われないよう総合的な排水強化対策を講じる。県内の24時間雨量は最大356㎜を想定。400年確率規模での降水量に耐えられる抜本的な対策を検討してきた。

 杣井木川は栃木市境町の源流から小山市押切で永野川左岸に合流する流路延長9・2㎞、流域面積12平方㎞の河川。流域は巴波川と永野川の堤防に囲まれており、永野川合流点に県が杣井木川排水機場を整備。永野川の水位上昇に応じ、ポンプ排水している。

 杣井木川排水機場は関東・東北豪雨時に冠水し、エンジンが非常停止。流域では浸水面積100ha、床上浸水69戸、床下浸水9戸の甚大な被害が発生。ポンプ能力を上回る出水が原因で、県は浸水被害が頻発する排水機場のポンプ増設と調節地の築造を計画。

 県は19年度、排水機場のポンプ増設工事に着手。毎秒2・5㌧を排水する口径900㎜の立軸軸流ポンプ2台を増設し、毎秒5㌧の排水能力を確保。現況ポンプ毎秒7㌧に加え、毎秒計12㌧に増強を図る。現在は地下構造物を施工中、ポンプ供用は21年度。

 県が上流側に築造する調節池は20~21年度で測量設計や地質調査を通じ整備適地を確定。20年確率規模で計画し、面積約8ha、容量は約16万㌧。21年度の地元説明会を経て用地測量や物件調査を委託。22年度の用地買収、23年度の着工を目指す。

 県事業完了後、関東・東北豪雨規模の降雨量を記録した場合、浸水深を約0・86m低減できる。しかし浸水深は最大で約1・26mとなり、農地や道路は最大で約1・96mの浸水となる。市は田んぼダム約1700カ所(約400ha)の県事業補完対策を実施中。

 目標とする宅地無湛水の達成は不可能なため、市が追加対策に乗り出す。輪中堤は低地の集落を囲むように設置する堤防。宅地嵩上げは各戸の宅地嵩上げや宅地を擁壁で囲む方法。集団移転は居住に適さない区域内の住居を集団で移転する。

 輪中堤の整備箇所は県事業や田んぼダムの恩恵が低い場所。輪中堤の高さは県事業や田んぼダムの効果を検証の上で確定。用地確保が困難な区間はコンクリート擁壁構造物で溢水を防ぐ。メリットは住民の経済的負担がなく、短期間で完成する。

 宅地嵩上げは既存住宅をジャッキアップし、基礎または1階部分を高くする手法。これ以外ではコンクリート擁壁で住宅周辺を囲み、浸水被害を防止する方法の選択が可能。個人財産とあって工事費用は所有者負担。ただし最も早期に完了できる可能性が高い。

 集団移転は国の防災集団移転促進事業が適用となる。住宅地の規模が10戸以上、移転する住居の半数以上が住宅団地に入居することが条件。市は住宅団地の用地取得や造成、各種インフラ施設を整備する。長期間の事業となり、移転者の経済的負担が大きい。

 押切地区は約30世帯、下泉地区は約20世帯、中里地区は約10世帯が居住する。地区ごとの意向は濃淡があり、3案を叩き台に議論を深化させる。結論を導く期間は設けておらず市は必要に応じて検討会に出向き、事業内容の解説や助言で協力する。

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