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県土と共に企業も強靱化/波及効果 地域振興までつなぐ/木下修・長野県建設業協会会長インタビュー①

2021/06/16 長野建設新聞

 長野県の2021年度当初予算における公共事業費は、20年度2月補正で計上した国の「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の初年度分487億円を含め1853億円。前年度に比べ83億円増、率にして4・7%増と、大規模なものになった。『より豊かで安全な信州へ』。大規模災害が頻発する昨今、県の方針を具現化するため地域建設業にかかる期待は大きい。長野県建設業協会の木下修会長に、これまでの強靱化の取り組みや今後の加速化対策への思いを聞いた。


 ―18年度からの強靱化3か年緊急対策の成果について


 長野県では一昨年の台風19号災害、昨年7月の豪雨災害と甚大な自然災害が続けて発生した。もちろん緊急対策で整備された砂防施設や河川の樹木伐採・堆積土撤去により被害を未然に防いだ事例は多くあったが、相次いで大規模災害に見舞われたということからすると「間に合わなかった。もう10年前にやっていれば」という思いが強い。ただ、台風19号で言えば長野市の穂保地区で千曲川の堤防が決壊するとは誰も想定していなかった。強靱化対策の難しさを痛感した。

 一方で地域の建設企業にとっては非常にプラスな面があった。われわれには地域の雇用を支えるという重要な役割がある。3年間は安定して仕事量を見込めるということで雇用増に踏み出せた企業も多い。今回さらに5か年加速化対策によりインフラ整備に投資していただけることは、地域企業が災害等に対応し得る体力を付けるという意味でも非常にありがたい。


 ―台風19号災害は図らずも県民が地域建設業の重要性を再認識する機会になりました


 県内では久しぶりの大規模災害だったが、被害が大きかった割には応急復旧への着手が速やかにできた。混乱は非常に少なかったと思う。理由の一つとして県が行っている小規模維持補修JVの取り組みにより「地域を守る」という意識が浸透していたことがある。地域の企業がJVを組み、複数年の間、地域の県管理道路の維持補修を行うもの。来年度からは道路だけでなく河川・砂防等を含め、地域を面で捉えた維持補修の試行が一部地域で始まる。「この地域はわれわれが守る」という意識が一層強まると思う。

 もう一つは経営的な問題。強靱化対策という安定的・継続的な投資があることにより、いざ災害が起きた時に人や機械を投入できるという体制が一時に比べると整っていた。10年前にはとてもこのような対応はできなかったと思う。

 県側の意識も変わった。田中康夫知事(在任期間2000~06年)の頃は競争オンリー。誰が応急復旧を行っても本工事は関係なし。発災時にどれだけ苦労しても本工事ができないという状況。その後、村井知事、阿部知事と代わる中で建設部の対応も変わり、19号災害では応急からそのまま本復旧に入った工区も多くあった。苦労した者が報われる形になり、皆もやりがいがあると思う。

 小規模維持補修に利益的な魅力は薄く、JVの幹事企業ともなれば重荷でもある。しかし、地域の企業に「協力して地域を守っていこう」という協調性が生まれた。ライバル同士ではあるが、非常時には一致団結する意識が芽生え育っていることは、地域住民にとって非常に有益なことだと思う。


 ―災害からの復旧・復興に加えて5か年加速化対策もしっかりと進めていかなければいけません


 地域によって温度差はあると思うが、人手は全般的に相当不足していると思う。東北信は台風19号災害復旧の繰越工事があり、発注は済んだが仕事は終わっていない。それを引きずったまま加速化対策ということで非常に忙しい。南信も諏訪地区は若干余裕が出たとも聞くが、リニア関連がある。本年度は皆、手一杯だと思う。県建設部は加速化対策の初年度分を計上した21年度2月補正について「原則として6月末までに公告する」としており、発注の集中による不調・不落の増加を心配している。

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