小山市は、1級河川杣井木川流域排水強化対策の「押切地区防災集団移転促進事業計画書案」を国土交通省に提出した。移転先は押切地区から東方10㎞圏の県道大戦防小山線に隣接する県営塚崎団地跡地約1ha。大臣同意が得られ次第、夏を目途に住宅団地造成工事の一般競争入札手続きに入る。敷地造成一式、道路築造と下水道管布設が各延長400m、緑地整備630平方m、貯留浸透施設一式を計画した。今年度の工事費は約1億5700万円を見込んでいる。2029年度の移転完了を目指し、総事業費約20億円を投入する。
移転先は市有地だけに、用地取得の必要がなく更地化済み。市営塚崎住宅が隣接する。逆コの字型の土地形状を成し、付近は住宅街が広がり商業施設が多数立地。生活利便性が高く、落ち着いた住環境。1級河川思川東側に位置し、過去の内水被害はゼロ。
市施行の住宅団地は5戸以上で移転対象戸数の半数以上の住宅団地への入居が必須。対象戸数31戸のうち、16戸が移転を表明。一部は複数世帯住宅を分離し、個別の戸建て住宅を希望。一定のコミュニティは確保できた。残り15戸は別の場所に移転の方向。
1戸当たりの敷地面積は330平方m。個々の敷地面積は一律である必要はなく、移住者の希望で330平方m以上でも以下でも差し支えない。平均面積が330平方m以内に納まれば問題はなく、移住者が求める敷地面積の自由度は比較的高い。
市は市議会2月定例会で建築基準法に基づき、杣井川流域を災害危険区域に指定する条例を制定。公布後は原則、新たな建築物建設が規制される。これにより市による移転元地の買収が可能になった。元地買収後は市有地となり、一団の土地は市が管理する。
国庫補助対象は①住宅団地用地取得造成費②移転者の住宅建設と土地購入費(住宅ローン利子相当額)③インフラ施設整備費④移転元地の買い取り費⑤引っ越し費。補助率は4分の3が認められる。住宅団地は市営塚崎住宅を囲むようコの字型に配置する。
集団移転は検討項目が多く、細部を詰めるのに長期間を要す。このため事業期間の制限は定められておらず、移転者には土地建物購入の経済的負担が生じる。移転完了後は浸水被害に見舞われることがなくなる半面、生活形式は大きく変化する。
押切地区住民は20年度、集団移転を選択した。21年度は勉強会を3回重ね、22年度は事業説明会に臨んだ。22年度の物件調査概算補償費算定と用地調査、23年度の用地測量は東武測量設計に委託。委託面積は杣井木川と永野川に挟まれた2・8ha。
22~23年度の事業計画策定は日本工営都市空間、23年度の移転先地予備設計、24年度の移転先地詳細設計、土地権利者調査は中央測量設計、事業計画修正はURリンケージが担当した。URは全国のまちづくりや災害復旧復興に豊富な知見とノウハウを持つ。
杣井木川は栃木市堺町を上流端とし、小山市押切で永野川左岸に合流する流路延長9・2㎞、流域面積12平方㎞の河川。流域は巴波川と永野川の堤防に囲まれており、永野川合流点に県が排水機場を増設。永野川の水位上昇に応じ、ポンプ排水している。
15年の関東・東北豪雨時には浸水面積100ha、床上浸水69戸、床下浸水9戸被害が発生。教訓を踏まえ、再度災害に見舞われないよう計画を立案。関東・東北豪雨と同規模の降水量に耐えられるよう災害リスク地域から安全なエリアの移転策を練り上げた。