2026/07/24
乙事主が伝えること(群馬・MT)
乙事主が伝えること
▼またチョコパイが小さくなった。このままだと10年後には、逆にわれわれがチョコパイを作って企業に届けることになる。そんな皮肉を耳にしたのも数年前のことだ。もちろん実際にそうなるわけではないし、企業努力を認めもするが、商品が少しずつ小さくなっていく現実を見るとしんみりしてしまう
▼映画『もののけ姫』で猪神の長老、乙事主(おっことぬし)は若い猪たちを「みんな小さくばかになりつつある」と嘆く。森を侵され、人間との戦いを重ねる中で、かつての誇りや知恵、力を失っていく一族の姿を自ら認めざるを得ない場面だ
▼小さいという言葉は単に体の大きさを指しているのではないだろう。視野が狭くなること、長い時間軸で物事を考えられなくなること、目先の利益や感情に振り回されること。大きくなるべきは技術や経済だけではなく、私たちの視野や想像力なのだろう。映画公開から約30年たっても変わらず心に重く響くせりふだ
▼世界に目を向ければ、政治の劣化を指摘する声は少なくない。複雑な問題に対して単純な敵味方の構図を示し、分断をあおる。長期的な政策よりも、短期的な支持率や話題性が優先される。かつては国家の指導者に求められたはずの見識や品格、忍耐力よりも、派手なパフォーマンスが注目を集める。もちろん昔の政治が理想的だったわけではない。しかし、難しい課題を難しいまま受け止める余裕が社会全体から失われつつあるようにも見える
▼乙事主の嘆きは、滅びゆく猪神の一族だけに向けられた言葉ではない。物価高の時代に小さくなったチョコパイを手にするたび、時々思い出したいせりふである。(群馬・MT)















