コラム

2025/11/27

トンネルの先には(群馬・YT)

トンネルの先には

▼「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」。川端康成の『雪国』の有名な書き出しだ。子どものころ、群馬県と新潟県を結ぶ関越トンネルを通った時に、まさに同じ体験をした。不安になるほど長い時間トンネルが続き、出口を抜けた瞬間に広がったのは一面の銀世界。急激に変わった景色にはしゃぐ自分に対して、父親が雪国の冒頭を教えてくれたのを覚えている

▼関越トンネルは谷川岳の下を貫き、その全長は約11㎞にもおよぶ。開通は1991年のことで、当時は日本最長の道路トンネルとして話題を集めた。かかる時間は10分弱。現在では国内で2番目になってしまったが、その価値は少しも損なわれていない

▼雪国で描かれている国境の長いトンネルは、関越トンネルと同様に群馬県と新潟県をつなぐ、清水トンネルがモデルとされている。31年に完成しており、いわば関越トンネルの先輩だ。かつてこの地域では、三国峠や清水峠といった峠道が交通の難所として知られていたが、鉄道トンネルの清水トンネルと国道17号の三国トンネル、そして関越トンネルのいずれもが関東と新潟を結ぶ重要な交通の動脈として機能している

▼道路トンネルと鉄道トンネルの違いはあれど、どちらも人と物の移動を劇的に改善させた。それだけでなく、トンネルを抜けた瞬間のあの感動を、これからも与え続けていくことだろう

▼橋の上から見た川の流れ、ダムの雄大さ、地平線まで続く長い道路など、風景をかたちづくり、感動を与えるのはトンネルだけではない。建設産業は、生活を支えるだけではなく、心を動かす風景を作り出す力を持っている。(群馬・YT)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら