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不良不適格業者の排除対策に本腰、10年もたたずに建設産業は斜陽産業になる?

1999/06/30 

 十年もたたずに「建設産業は斜陽産業になる」であろう、と言ったら、いったい建設業者はどう思うであろうか。大手・中堅業者は「おおかた予測済み」と応え、協会挙げて新規対策を練ってこよう。全国建設業協会加入の地方大手を除く中小企業は「そんなことはない」とタカをくくるに違いない。公共事業の進路決定権を握る建設省の業行政に対して、大手ほど一早く、情報を入手し対策を講じ、尚かつ、先回りして業界団体としての提言を行う。大手と違い、中小企業は業行政が打ち出した施策に対する経営戦略は全くない。将来に対する経営戦略のことより、目先の工事にしか頭が働かないのは止むを得ないであろう。しかし、最低、以下のことだけは認識していただきたい。

 民間建築はともかく、社会資本整備が大方整備される公共投資一〇か年計画が二〇〇七年に終了し新規・大規模工事が減少する。その帰結として欧米型の維持補修の時代になる。不良業者排除や業界再編及び下請業者への指名権発動などといった業者選別がますます強まる。ISO九〇〇〇取得業者など指名要件が厳しくなろう。電子入札に対処できなければ入札参加できない-など、建設省が唱えている「技術と経営に優れた企業が伸びられる透明で競争性の高い市場環境の整備を推進する」ために、建設省は今後あらゆる手を打ってくることだろう。

 まず、古くて新しい問題となっている「不良不適格業者」の排除対策に本腰を入れ始めた。不良不適格業者排除による業界再編がスタート。技術力・施工力が全くない、丸投げ業者や、必要とされる技術者の配置を行わない不適格業者なども摘発の中心になりそう。

 平成十年三月現在、許可業者数約五七万社。うち、完工高のある業者が約三〇万社、完工高のない、いわゆるペーパーカンパニー業者は二七万社に及ぶ。これは許可制度の形骸化との指摘もあり登録制の導入も示唆されている。また、完工高のある業者のうち、経審受審業者約二〇万(公共工事)、プロパー業者(民間工事)約一〇万社。この三〇万業者のうち資本金一億円以上は約六、〇〇〇社に過ぎない。

 また、経審受審業者約二〇万社のうち、公共工事の元請業者、つまり前払業者は八万社が現状。そこで建設省は、この元請け八万業者自体が、多すぎると言って、業界再編に乗り出した。

 不良不適格業者排除対策は、営業所専任技術者の常勤性の厳重チェック、入札前・入札後契約前・施工中における監理技術者の現場専任制の確認などで排除していく。いずれも、元請は市町村においても二、五〇〇万円以上の工事についてコリンズの登録を義務付けされよう。この六月から、都庁でも現場の施工管理技士についてコリンズでチェック。その場で問題があると確認され次第、非指名扱いされる。行き先、建設投資規模が減少し競争が激化していくためにも、建設省では業者数を減少していこうとの狙いがある。

 さらに、同省では今後の電子入札へキャルスの導入を控えて、指名条件(指名基準の運用基準)にISO九〇〇〇(品質管理他)取得などの様々な足枷をはめようとしている。

 また、下請の企業力を評価する、いわゆる専門工事業者の経審版であるステップアップ指標で、下請けを監視し、指名するようにする。現在、建設省が元請・下請関係がうまくいかずに行政介入するタイミングを図っているといわれる。建設産業政策大綱は「専門工事業者の技術力、施工力を適正・中立に評価し活用できる仕組みを検討する必要がある」としていた。

 公共投資についても同大綱は「二十一世紀初頭に住宅・社会資本整備が一巡した後の建設市場は、公共投資も現在の欧米型の維持・更新中心の姿に移行する。国民総支出の二割を占める建設投資の割合も低下する」としている。加えて、政府は、昨年六月財政構造改革会議で「公共投資十か年計画を二〇〇七年までに延期する」ことを閣議決定した。このため、建設省では、二〇〇七年までに計画通りに公共投資を行い六三〇兆円をつぎ込めば欧米並に追い付き、その後は維持管理の時代になると名言。

 平成九年の各国建設投資を覗くと、日本七四・六兆円、米国七四・二兆円、英国六・九兆円、独国二〇・七兆円、仏国七・八兆円。日本の社会資本の維持更新費の将来予測によれば、維持更新費は一九九〇年度の約四・〇兆円から、二〇〇〇年度には約一〇兆円の水準になり、二〇一〇年度には約二二兆円に達するものと見られている。

 しかも、公共投資は国債を使ってまでも奮発したが、この先、景気が浮揚すれば、財政改革法凍結が解除されるのは間違いない。コスト縮減、公共投資の削減、維持管理時代の出現に加え、大型・新規物件の減少で、業界の倒産が続出。建設産業が斜陽産業にならないとも限らない。

 全建の銭高会長は、先の自民党幹部との懇談会で、二十一世紀前半を国民が安心感をもてる国家像としての「社会資本整備計画」を早急に策定するよう求めた。新たな公共工事計画を要請したことに他ならない。

 一方、建設省に先駆けて入札後に設計金額、予定価格、最低制限価格を事後公表し、さらには設計金額の事前公表まで踏切るなど入札・契約制度の先進県となっている埼玉本県では、不良不適格業者の実態とその対策について県建設管理課に取材した。

 「不良不適格業者」は言うまでもなく、技術者があまりいなかったり、或いは施工力がないにもかかわらず数多く工事を受注する企業を指す。県は技術者の重複をチェックするため九年度末から「技術者専任制の事前確認」を行っている。このシステムは従来の工事カルテ登録後チェックに加え、カルテ登録前にも必ず事前に工事件名、発注者名、許可番号、工事分野、資格者証明など一四項目について確認表を提出させている。

 さらに、コリンズに登録している国、県発注工事を毎月チェックし技術者が重複していないかを見る。単純な登録漏れと技術者が会社を移ったことによる追跡不可能なケース以外での本当の意味での「重複」は毎月一、二件はあるとしている。しかし、その場合は電話で改善を求め、これまでのところ契約打ち切りはまだないとのこと。

 しかし、チェックがそれでも困難なケースはあるようだ。例えば、本県と隣接している千葉県、茨城県、或いは組合施行の土地区画整理事務所が発注する工事についてはタイムリーにチェックはできなくなるとしている。

 県ではチェック体制を整えるため、いずれ早い時期に公契連を通じ、市町村、組合施行の発注などさまざまな発注機関に対し国と連携しコリンズへの登録義務付けのリーダーシップをとることになるのではと語っている。

 魅力ある建設業界の発展のために、発注者は常にチェックするという責任感をもち、不良不適格業者の排除は官、民が一体となって取り組み、それがひいては建設業界のイメージアップにつながることを今一度自覚してほしい。



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