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(一財)建設経済研究所

民間工事における建設業者選定基準等の実態調査をまとめる

2001/02/02 

 建設経済研究所は民間工事における建設業者選定基準等の実態調査を行った。民間建築工事の発注者は、経営事項審査の認知度、利用状況は低く、今後は周知を徹底することが必要であることがわかった。調査は平成11年の延べ床面積400㎡以上の建設工事を発注(契約)した個人・民間法人を対象に実施した。

 建設業法の経営事項審査の認知度は37・4%であるが、知らない発注者の中でも経営事項審査の活用を希望する者が59・5%ある。実際に経営事項審査を活用した内容は「総合評点」、「技術力」、「経営状況分析」、「工事の安全成績」が多く、経営事項審査の中では「総合評点」などのニーズが高いことを示している。平成10年秋から経営事項審査は公表されているが、民間建築工事の発注者の認知度、利用状況は低いのが現状で、今後は経営事項審査の制度や利用方法の周知を検討する必要があることがわかった。

「一括下請負禁止」と「監理技術者の常駐制度」の認知度は、それぞれ70%以上であるが、いまだに100%に届いていない。民間建設工事は「一括丸投げ工事」、「疎漏、手抜き工事」が少ないと言われているが、この原因の1つとして、発注者の建設業法に対する認知度が低いことが考えられる。

 このほか、発注者の多くは個人を含めた零細事業主(個人事業主35・8%)で、資本金5億円以上の大法人は10・7%に過ぎず、全体的に工事の発注頻度が低いことがわかった。発注頻度は「2~3年に1件より少ない」発注者が50%以上を占めており、「1年に6件以上」発注する発注者は約7%となっている。

 また、建設工事を行うに至った経緯は、建設事業を「自ら計画した」者が70%と最も多く、次に多いのは10・2%の「建設会社の勧め」で行われている。

 施工業者を決定する際の相談先は「自ら情報を収集し、建設会社を決定」した者が57・7%と、次いで「設計事務所に相談した」者が30・4%となっている。

 建設会社を選定する上での判断基準は「価格の安さ」、「施工の技術力」、「アフターケア」を重要視する発注者が多くなっており、「営業担当者の熱心さ」「設計事務所の紹介」、「金融機関の紹介」、「不動産会社の紹介」の重要度は高くない。設計事務所の発注者に対する建設会社の紹介は重要視されていないものの、発注者が建設会社を決定する際には、設計事務所が有力な相談先となっている。

 また、昨今の大手ゼネコンの倒産や再建放棄要請の問題、中小建設会社の倒産増加の影響のためか「会社の風評」、「会社の財務内容」が「価格の安さ」などに次いで、建設会社を決定する上での判断基準として存在している。

 発注者が建設会社を決定する上で、実際に入手した情報は「工事実績」、「価格の妥当性」、「財務内容」が多く、情報の入手先は「建設会社の担当者」、「建設会社の会社案内」、「知人」が圧倒的に多い。これは、民間工事発注者の情報収集力の限界を示しており、情報の客観性に課題と疑問が残っている。

 建設会社を決定する上で入手できなかったが、入手できれば活用した情報で最も多かったのは「工事施工における事故歴」が28・8%で、「財務内容」が19・7%、民間技術者の資格や数15・8%、工事実績15・1%と続く。上位の回答結果から、民間工事の発注者は、建設会社の工事の安全性に関する情報が十分に入手できていないことがわかった。

 下請会社(専門工事会社)指定・推薦については、指定を行った発注者は全体の約4分の1で、他の者の推薦によって指定したものの中では「設計事務所」、「商売上の取引先」が指定するケースが多い。

 建設会社の選定結果は「大いに満足した」、「満足した」が8割を超えており、「やや不満」、「不満」はあわせて1割程度。その理由には「施工状況」、「工事コスト」、「契約内容」についての説明が十分でないとする回答が目立ち、経験が不足する発注者が建設会社担当者の説明不足に苦慮している。

 調査結果を総合すると、一般的に民間の建築工事は多額の費用を要し所有も長期にわたる。このため、工事発注者の多くは建築工事の計画・建設会社の選定に慎重に対応するが、現下の請負契約制度では、請負契約後の解除権が制限されており、契約後は建設会社に対する立場は強くない。情報集中力についても個人や中小企業のレベルでは限界があり、建設会社を選定する上の1つの方策として「経営事項審査」を民間工事に活用することを要望している。



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