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飛島建設 伊藤寛治社長/「まず自分自身を変えてくれ」/東日本大震災でトグル効果実証

2011/06/10 本社配信

 飛島建設の伊藤寛治(いとう・かんじ)代表取締役社長へインタビューし、就任1カ月の感想や経営課題について聞いた。伊藤社長は就任に際し、社員へのあいさつの中で「まず自分自身を変えてくれ」と語りかけた。自身にも向けた言葉で、「今までのやり方が本当に良いのかどうか、見つめ直してほしい」と考えている。また東日本大震災では、同社のトグル制震を取り入れていた仙台市役所や南相馬市役所などで高い効果が証明されており、その後、トグルへの引き合いが増加しているという。





 ―社長就任から1カ月が経過した今、感じていることは

 伊藤 社長就任発表が3月11日で、同日に東日本大震災が起きた。こういった局面で社長に就任するというのは、非常に大きなものを背負ってスタートしたという実感があった。多くの社員を抱えて、建設業界の状況は依然として厳しい。そして今回の震災復興対応などは、先行きがまだ見えない。その中で自分に課せられた荷物の重さを感じ使命感を強くしている。


 ―中期3カ年計画(2011~2013年度)に込めた思い、狙いは

 伊藤 構造改革は最初にきちんとやっておかなければならない事柄で、機構改革と人的資源の再構築により損益分岐点の改善は完了させた。今後、本業の部分をきっちり強くすることと、次のステップに向けて、エンジニアリング事業の方向付けを具体的なものにしていきたい。また「防災のトビシマ」とかねてから言ってきており、付け焼刃ではないところなので、ここはしっかりアピールしていきたい。


 ―中期3カ年計画で組織体制を見直したが

 伊藤 前年度までは、土木事業と建築事業と、地域によって、二つに分けていた。財布を別々にすることで、自分の事業部の採算性を強く意識することが、主眼のひとつだった。ただ全国あまねくという政策は、私どもの規模、スタンスに合わないことがわかった。今後は経営資源を首都圏、大都市に絞る。採算性の意識はできたので、地方については土木と建築と一緒でも良いだろうと考えた結果、今回の組織体制となった。


 ―海外展開について

 伊藤 これまでは海外工事も国内同様に土木事業・建築事業と組織が分かれていたが、国際支店として一緒にした。海外については3カ年計画の中でも今後の展開を記しているが、初年度は数字的には意識していない。むしろ昨年度より抑えている。ただ将来的には、海外はきちんと対応していかなければいけない分野。スタンスとしても、ブルネイ、パキスタンの2カ国特化から、周辺国に広げていくことを考える。具体的に言えば、インドネシアや東チモールなど。これらの国は、過去にも進出しており、私どもの足跡がまだ残っている。海外で仕事をするためには、ローカルスタッフ、情報源、協力業者が必要となる。そういった部分で入りやすい。主な分野としては、ODAや日系企業の施設、在外公館などを考えている。


 ―東日本大震災でトグル効果が証明されたが、今後の展開は

 伊藤 今回、耐震工事と呼ばれるもののうち、当社のトグルのような制震装置が、免震や耐震に比べ有効であったところが実際に示されたので、今後の展開に有利と思っている。今まで大学や庁舎といった公共施設に多かったのだが、民間企業の防災に対する意識も変わってくるし、時間的な感覚も、早く対応しなければいけないという空気が出てきている。今回、トグルを取り付けていたところでは、外見的な実害が少なかったというだけでなく、中の執務にも大きな影響がなく、翌日から同じように業務ができたという声もいただいている。


 ―国内の公共工事の市場について、どう見るか

 伊藤 減少傾向は変わらないだろう。今回の震災で、どういう風に建設需要が起こってくるかは読めない。ただ私どもは「防災のトビシマ」と銘打ってきているので、そちらで受注を増やしていきたい。


 ―社員に望むことは

 伊藤 当社は今年で128周年を迎えた。近年は大きな赤字を出したり苦しい状況の中であっても、128年を迎えられた理由は、どこにあるのかということ。技術を持った真面目な社員と、信頼してくださるお客様。これがあってこその、今の飛島。良いところを今後も持ち続けていきたい。ただ、前年度の結果に表れているように、反省をしなければいけない部分もある。これについては、組織や仕組みなど、今年度に手当てしながら、強くしていきたい。


 ―強くしていきたい部分、経営課題とは

 伊藤 営業力と現場管理力が弱くなったのではないかと感じている。両方とも、一朝一夕でできる話ではない。なおかつ、経営の基本。この二つについては、社長が変わったということで、もう一度、一から鍛えていく。


 ―これまでを振り返り、うれしかったことは

 伊藤 横浜の土木部長をした時と広島の支店長をした時は、まったく知らない土地に行き、知っている部下が全然いない状況だった。一から自分もやり直すつもりでストレートな気持ちを出したら、みんながついてきてくれた。その結果、良い成績を上げられた。


【略歴】

 昭和24年8月12日生まれ。61歳。金沢大学工学部卒業。広島支店長、執行役員経営管理本部長、取締役兼上席執行役員専務管理本部長などを歴任。5月1日より現職。



【写真=営業力と現場管理力の重要性を語る伊藤寛治社長】

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