5月22日に開業する東京スカイツリー。これまで世界で最も高かった中国の広州タワー(高さ600㍍)を抜き、世界一高い自立式電波塔となった。設計、施工ともこれまで経験したことのない未知の領域だったため、苦闘の連続だったという。設計を担当した日建設計では意匠、構造、設備、照明から監理、確認申請の図書作成まで含めると100人以上に及ぶ職員が携わった。まさに世界一の高さに「挑む」ために選ばれたのだ。
「時空を超えたランドスケープを造ってほしい」。東武鉄道から日建設計に示された言葉は抽象的だったが、世界一の高さに挑む発注者の思いを十分に汲み入れた。無数のアイデアを考え、その中から数点に絞り、最終的に今の形が選ばれた。まさに未知の領域への挑戦がここから始まったのである。
前例がない高さにより各指針にも該当例がないため、気象観測気球を50回飛ばし、600㍍上空の風を詳細にリサーチした。風洞実験やシミュレーションを行い、風の方向や速度、塔にかかる荷重などを分析した。「自分たちで基準を設定するしかなかった。思考錯誤の連続だった」(同社)。
未知の領域は上空の風だけではなかった。タワーを支える基礎構造部分もそうだった。敷地面積は約3・69㌶、元は貨物ヤードの跡地で、設計を始めた当時は東武鉄道の用地や一般駐輪場として使われていた。東西方向は約400㍍、南北方向は約100㍍の細長い敷地であり、高さ600㍍を超えるタワーを建設するうえで、とくに南北方向の敷地幅は大きな制約を受けることが予測された。しかも敷地内の地下に都営浅草線が斜めに走る。設計条件は決していいとは言えなかった。そんな条件下で「高い安全性」を確保しなければならない。安全を担保するだけの設計、構造でなければ、世界一の称号はもらえないのだ。
タワーの基礎の部分は最も大きな力がかかる。そこで基礎の杭を壁状にした鉄筋コンクリート造連続地中壁杭を地中深くまで杭打ちした。要所には鉄骨鉄筋コンクリート造の壁杭として、壁面に「節」を付けて摩擦抵抗を大きくし、地中での引き抜きや押し込む力への耐力を持たせた。先端位置は地中50㍍にまで達した。壁杭を放射状に地中に張り巡らせた「木の根」のような構造は、巨大な地震でも倒壊しないよう強靭なものとなって、世界一高い塔体を支えた。
タワーの足元は一辺約68㍍の正三角形の平面形。三角形の3つの頂点から上部へと伸び、高さ約300㍍ところで平面が円(正確には24角形)に変化する世界にも例のないタワー形状になっている。塔体の構成は「トラス構造」と呼ばれるものを採用した。足元の鉄骨の直径は2・3㍍、厚さ10㌢の高強度鋼を使用した。標準的な鉄骨よりも約2倍強度が強く、溶接性にも優れた鋼材を用いている。
しかし、これら鋼管は強度、サイズともに大きく、しかも高力ボルトでの接合が難しい。このため「分岐継手」と呼ばれる溶接方法を採用して接合させた。様々な方向に部材をつなげる接合部の処理のし易さ、外観上のシンプルさ、錆びにくいというメリット等が決め手となった。ただ、大断面で高強度な鋼管の溶接接合はこれまで建築分野で行われたことがなかった。そこで海洋で建てられる石油掘削ジャッケットの基準を基本として国内指針や解析で補完しながら強度の確認をした。
色は日本の伝統色「藍色」をベースにしたスカイツリーホワイト。少し青みがかったホワイトで、ケレン味のない色に仕上がった。タワーは「そり」「むくり」といった日本の伝統文化の独特な形状も備えており、タワーを見る方向によってシルエットが変化する。
東京スカイツリーの天望デッキ(第1展望台)の高さは約350㍍、4階の出発階からは第1展望台までは40人乗りエレベータで約50秒で到着する。天望デッキから天望回廊(第2展望台、高さ450㍍)まではで約30秒だ。展望台最上部へは緩やかなスロープを上ることで空の高さが体感でき、大パノラマが眼前に広がる。
地震や台風時に揺れを大幅に低減する新しい制振システムを導入したこともスカイツリーの特徴だ。タワーの中央部に配置した鉄筋コンクリート造の円筒(心柱=高さ375㍍、直径8㍍)と外周部の鉄骨造部分とを構造的に切り離し、地震や強風時の揺れを低減させるものだ。心柱と塔体の間はオイルダンパーで接続しており、心柱が塔体に遅れて個別に動くことで、揺れを相殺するようになり、地震時の揺れを最大約50%低減できる。五重塔のような形になっており、「心柱制振」と名付けられた。日本の五重塔は地震による倒壊例がほとんどないため引用されたという。
またデジタル放送用のアンテナが取り付けられたゲイン塔(高さ140㍍、直径6㍍)の頂頭部にも制振装置(ТMD)が取り付けられ、地震時の揺れを最大約30%抑制できる。巨大なバネの上に載せた重りが全体とはタイミングがずれて揺れ、ゲイン塔の揺れを低減する役割を担っている。大きな揺れが生じてもアンテナからの電波送信が安定するというわけだ。タワー最頂部には避雷針が取り付けてあり、展望台の外壁パネルなども塔全体に電気的に接続できるよう設計されており、落雷対策も施されている。