昨年12月に公布・施行された国土強靭化基本法に基づき、政府は6月初めに国土強靭化基本計画を閣議決定した。また毎年度、個別施策の進ちょく状況を府省庁横断的に管理するアクションプランも策定した。日本工業経済新聞社では北村隆志内閣審議官(国土強靭化推進室次長)にインタビューし、国と地方の今後の展開を聞いた。
―基本計画策定までの経緯、アクションプランについて
「昨年12月に国土強靭化基本法が成立した。その法律において、国土強靭化基本計画を策定することが規定された。策定に際しては、起きてはならない事態を想定し、弱いところ、脆弱性を評価し、それを踏まえて基本計画を作ることとされていた。今回、基本計画を閣議決定すると共にアクションプランを総理を本部長とし全閣僚で構成される推進本部で策定した。基本計画が施策分野ごとの推進方針など、どちらかといえば中期的なものであるのに対し、アクションプランでは重要な業績指標を設け、目標レベルと年次を示し、進ちょく状況を毎年フォローアップし、強靭化施策が進展されているかをチェックしていくことになる」
―国土強靭化地域計画について
「国の基本計画では、想定するリスクを当面大規模自然災害という一般的なものにしている。実際にそれぞれの地域で強靭化を図ろうとすると、それでできる部分もあれば、南海トラフ巨大地震や首都直下地震のほか、それ以外にも地域ごとに一番懸念される災害がある。災害をもっと具体化すれば、より強靭化計画が中身の濃いものになってくる。そういった意味でも地域計画は重要。アクションプランによるフォローアップと地域計画とががあいまって、国土の強靭化が高まっていくことを期待している」
―地域計画は策定が法律で義務付けられているわけではない中で、自治体に求めるスタンスは
「国の基本計画は、法律で策定しなければならないと規定されているのに対し、地域計画は策定することができる、という整理になっている。策定するかどうかを含めて地域の考え方による。ただ強靭化のためには、全自治体が作っていく方が望ましい。そのために、自治体が地域計画を策定しやすいようにガイドラインを作成した。また、熱心な自治体を国のモデル調査の対象に選定し計画策定の後押しをしたい。南海トラフ巨大地震で大きな被害が想定されるなどの理由から強靭化に関心が高い地域もあれば、そうでない地域もある。ただ災害というのは南海トラフや首都直下地震だけではなく、いつどこで起こるかわからない。地域計画をぜひ多くの自治体で作っていただきたい」
―ハード整備とソフト対策の組み合わせについて
「強靭化において必要なハード整備は進めなければならないが、ハードは時間と予算が必要。その間、災害は待ってくれない。ある日、突然に起こる。南海トラフ、首都直下地震はそれぞれ、今後30年間に約70%の確率で発生するとも言われている。しかも被害想定がとても大きい。南海トラフでは最大で30万人以上の死者が想定されている。被害額は最大約220兆円。首都直下地震も最大2万3000人の死者、約95兆円の被害額が想定されている。万が一、これらの最悪の想定が現実となれば、日本はなかなか立ち直れない。日本のGDPは約500兆円弱であり、220兆円というのはその4割にあたる。だからこそ、事前の備えが重要。ハード整備も大切だが、ソフト対策も相当に充実しなければ、本当の意味での強靭化はできない。かつハードもソフトも、それに関わる人たちが高い意識で取り組まないと実効性は上がらない」
―強靭化の概念について
「強靭化というのは、非常に広範なもの。例えば自治体で地域計画を作ってもらう際、都道府県だけでもなかなかできない。人命の救助や救援を考えると、消防が大きな役割を担うことになるが、消防は県よりも市が中心。県だけで考えていても難しい。海上保安庁、警察や自衛隊などまで含めて共通認識で進めることが重要。さらに民間が果たされる役割も大きい。各分野の人の連携が密になって初めて、実効性が上がる。もっと言うと、最後は国民一人ひとりの意識。教育もとても重要になる。それらと並行してハード整備も進める。それらがあいまって、日本は災害が多い国ではあるが、強くしなやかに耐えられる国、地域であることを、他国や他のエリアに宣伝できる。それが日本や地域に対する投資を生み、経済効果が上がるという、壮大な取り組みといえる。地域計画はそのための重要なファクター(要素)であり、ぜひとも作っていただきたい」
―地方へのサポートについて
「地域強靭化のために必要な道路や橋を造りたい、そのために強靭化の特別な予算で整備、支援してほしいといったことを話す人がいる。それについてはちょっと待ってくださいと言っている。地域の中で想定されるリスクなどについて議論し、まずは計画を作ることに意義がある。その結果として道路や橋が必要ということは当然あるだろう。国にしても地域にしても、強靭化はアンブレラ計画として、ほかの計画の上位に位置付けられる。国の場合でも基本計画は閣議決定して政府全体の方針となるが、それぞれの事業をやるのは各官庁。事業官庁には強靭化計画を尊重してやってもらう。万が一、反することがあれば、上位計画としての役割を果たさなければならない。それに伴う予算も優先的につけて、事業促進を図っていく。つまり、強靭化事業だから特別な予算があるという仕組みではない。重点化し、その中でどう具体化するかを考えていかなければならない。強靭化計画はアウトプットも大切だが、作る過程も重要。議論して意識を高め、自分たちの弱かった部分を見つけて対応していくことが大切。また一度策定しても完成品にはならない。何回もやって段々にレベルを上げていく」
―地域の脆弱性評価の考え方は
「脆弱性評価は、起きてはならない事態を想定して、弱いところを考えるということだが、起きてはならない事態というのは、いわば横串を通すということ。広域な地域で大きな津波が起こり、多くの方が亡くなるといった事態を起こしてはならないといったことを考えると、堤防だけ整備すれば良いという話ではない。造っている途中にも何が起こるかわからない。また、堤防が完成したからと言ってそれで万全ということでもない。そういうことを考えると、地域にとって起きてはならない事態とはどういうことかは、そこに住んでいる方々が、一番よく実情がわかる立場にある。国は45の事態を想定したが、それを機械的に地域計画で用いるということではないだろう」
―今後の各省庁の動きについて
「基本計画やアクションプランに基づいて取り組みを進めていくために、今の予算なり制度で大丈夫なのかを各省庁で精査し、予算が足りなければ要求していく。実は昨年も法律は成立していなかったが、先行的に取り組んでいた。今回は基本計画を踏まえて各省庁で予算要求をしてもらう」
―強靭化で建設業に期待する部分は
「公共事業費が減り、人も機械も必要最小限にしていった面があり、今は逆に足らなくなって入札不調が増えたりしている。国土強靭化の大きな担い手は建設業者の方々。日本の国土を安定的に良くしていくという意味において、担い手としての建設業の役割は大きい。日本は災害が多いのは事実。そこでハード整備の役割は大きい。一方でハードだけではできないのも事実。官だけでできることは限られていて、民間の力はとても大きい。ますます期待したい。
【略歴】
きたむら・たかし
兵庫県出身、60歳。1976年京大(法)卒、同年運輸省入省。国土交通省鉄道局長、官房長、総合政策局長、国土交通審議官、海上保安庁長官などを歴任。13年8月より現職。
【写真=地域計画の重要性について話す北村隆志内閣審議官】