千葉県地籍調査推進委員会(委員長=小安隆夫・(公社)千葉県測量設計業協会会長)の主催による「地籍調査出前講座」が先月30日、香取市内の佐原中央公民館で開かれ、東総・銚子地区の測量関係及び土地家屋調査士関係者ら総勢30人余が出席。2017年度での事業着手を目指す香取市の「地籍調査の進め方」をテーマに、同委員会総務企画部会長で(一社)長生郡市地籍調査協会代表理事、地籍アドバイザー、測量士、土地家屋調査士の石塚修氏が講演。「10条二項委託の市町村メリット」をはじめ「千葉県における地籍調査の取り組み」「(一社)長生郡市地籍調査協会の実績」「測量士と土地家屋調査士の役割」「今後の課題と提言」などについて、2時間余にわたり熱弁を振るった。
10条二項委託のポイント
香取市における「地籍調査事業計画」(案)によると、事業実施期間は2017年度から36年度の20年で、概算全体事業費には57億1300万円を見込む。15年度に基本計画を決定するとともに、香取市及び周辺の測量業と土地家屋調査士事務所による「市推進委員会」を設立し、事業計画書の作成、議会決議を経て啓発活動を展開。16年度で県に地籍調査事業計画書を提出、法務局へのデータ申請とともに、地籍専門法人設立及び測量業登録を行い、17年度で1年目の事業に着手する方針。
概算事業費57億17年度から20年
講演に先立ちあいさつした小安委員長は、「千葉県には『伊能忠敬』という偉人がいるにも関わらず、地籍調査は全国の中でも非常に遅れている」との苦言を呈したうえで「一方で法の改正による『二項委託』をはじめ、県民や地元住民に関心を持ってもらい、地籍への機運が高まってきたのも事実である」と分析。さらに「測量業と土地家屋調査士会が一緒になって、地籍調査に取り組むのは本県だけである」と主張した氏は「お互いの立場、技術、資格などを尊重しながら『一つにまとまって進もう』というのが我々推進委。よって、他県には負けない強さがある。これらを踏まえて、地籍の重要性を心得ながら、この機運を絶やすことなく、スクラムを組んで進めていくことが肝要」と指摘。「本日の出前講座がみなさんの力になれれば幸い」と述べ、あいさつを結んだ。
双方の特性生かし、地域を中心に連携
――地籍調査は、測量士と土地家屋調査士のお互いの特性を生かし、地域を中心とした測量会社と土地家屋調査士事務所の連携で行う――
これらを基本理念とした千葉県地籍調査推進委員会は、(公社)千葉県測量設計業協会(85社)、千葉県測量設計補償協同組合(45社)、千葉県土地家屋調査士会(620事業所)、(公社)千葉県公共嘱託登記土地家屋調査士協会(290事務所)の構成4団体が「千葉県の地籍調査を早め、推進していく」ことを目的に04年に設立。主な活動として、同年10月に1200人が参加した官・議員・業による合同研修会を皮切りに、地籍先進国・韓国への視察研修(05年)、韓国済州島への次世代地籍パイロット事業視察研修(06年)、長生郡市、山武郡市、木更津市地籍調査推進委員会の3市町村委員会発足(08年)、先進県・和歌山県視察(09年)、10条二項法人のモデルを協議(10年)、全県下での1万人規模の署名活動運動(11年及び12年)などを経て、11年4月に(一社)長生郡市地籍調査協会、12年11月に(一社)山武郡市地籍調査協会、14年8月には(一社)木更津市地籍調査協会が発足した。
香取市地籍調査事業計画(案)
▽概算総事業費=57億円(181・72k㎡×95%×3300万円)(5%除外)。181・72k㎡=25万2715筆、719㎡/筆。〈旧佐原市〉119・88k㎡・16万1216筆〈旧小見川町〉61・84k㎡・9万1499筆。ただし、19条5項地区は除外される
【2015年度】
▽市推進委員会設立=香取市及び周辺の測量業と調査士事務所
▽事業計画書作成準備(10月~)=市・委員会
▽議会決議=市
▽啓発活動展開=市・委員会
【2016年度】
▽地籍調査事業計画書提出(8月に県に提出)
▽法務局にデータ申請、戸籍調査担当市町村臨時職員採用(10月ごろ)、データ受領(2月頃)
▽所有者の住所調査=市役所(3月~6月)
▽新卒者採用=経験者及び次年度新卒者募集
▽地籍主任調査員=3月願書、6月試験
▽技術研修
▽地籍専門法人設立及び測量業登録
【2017年度】
▽1年目事業着手
▽住民説明会
▽一筆地調査
▽地籍三角・図根多角測量
▽地籍細部図根測量
▽地籍細部測量
【2018年度】
▽2017年度地区GH工程及び認証申請
▽2018年度地区住民説明会
▽2018年度事業一式
「香取市の地籍調査の進め方」から
石塚氏の講演による「地籍調査の包括的委託の事例」についてのポイントなどは次の通り。
【10条二項委託(包括的委託)とは】
○直営方式とは、一筆地調査を市町村職員が行い、測量は測量会社に委託する当初から採用されている方式
○外注方式とは、測量のほか一筆地調査も測量会社に委託する方式⇒第5次10か年計画(2000年度)から採用
○二項委託方式とは、測量及び一筆地調査を委託するほか市町村が行う工程管理と市町村検査を二項委託適格法人に委託(丸投げではなく最終確認は市町村職員が行う)する方式⇒第6次10か年計画(2010年度)から採用
【10条二項方式の市町村メリット】
○信頼ある法人に任せれば安心
○精神的負担が軽減できる
○担当職員の削減に寄与(大規模でも職員2人で兼務)
○成果品検定が義務付けのため測量成果が安心
○工程管理・検査を受託法人に委託できる
○関係機関との調整・協議等を委託できる
○臨機応変な対応ができる
○長期的に安心して任せられる(アフターフォロー)
【長期化の弊害】
○現在の全国の地籍調査事業の年事業費約200億円(第6次10か年計画では年平均約600億円を計画)
○全国を完成するための事業予算は約4兆円余り(14万k㎡×3千万円)
○このペースでは200年かかる。完成は2200年(23世紀)以降⇒こんなペースでよいのか
○200年(長期化の弊害)の損失=金銭的な損失・時間的損失・精神的負担。①個人の負担で測量する損失②公共事業の用地測量に負担増③地籍調査から登記までの経年変化の対応に経費④事務運営費。市町村職員の人件費及び準備・啓発費等の経費増⑤小規模による諸経費増ほか。計画準備費の浪費⑥事業化までの時間の浪費⑦境界紛争に関する精神的負担
【(一社)長生郡市地籍調査協会の概要】
○受注高=〈2011年度〉400万円。事業計画の支援業務〈12年度〉1億2000万円。長生郡長柄町2・35k㎡、白子町1・75k㎡、計4・1k㎡、その他業務〈13年度〉3億円。長柄町4・3k㎡、白子町3・1k㎡、睦沢町2・0k㎡、合計9・4k㎡、1万1500筆〈14年度〉5億円(5町村)。長柄町5・0k㎡(3900筆)、白子町2・7k㎡(5800筆)、睦沢町2・9k㎡(3000筆)、長生村2・0k㎡(3000筆)、長南町2・0k㎡(3000筆)、合計14・6k㎡(1万8700筆)
○2013年度各町実施体制(16班)=長柄町6班(3社)、白子町6班(5社1事務所)、睦沢町4班(3社+調査士1班(3調査士))
○2014年度各町村実施体制(21班)=長柄町6班(3社)、白子町5班(4社1事務所)、睦沢町4班(2社+2班(4調査士))、長生村3班(2社)、長南町3班(2社)
○協会の運営基本方針3原則=①権利の前に義務が先⇒権利を主張する前に義務を果たす。誠実に努力した人が報われる②相手目線(住民目線・他者)で行う⇒物事を円滑に進める基本行動。常に相手目線の行動を心がける③みんなで上手く正しく行う⇒希望する人みんなが、よい成果を効率よく、正しく(規則や法令等を順守し公益性を維持向上させる)
○管内(長生郡市)市町村の事業見通し=〈茂原市〉100k㎡。着手時期未定(ただし、地籍の着手には前向き)〈長柄町〉47k㎡。2012年度から10年計画。22年度登記完了〈白子町〉27k㎡。12年度から10年計画。22年度登記完了〈睦沢町〉36k㎡。13年度から11年計画。24年度登記完了〈長南町〉68k㎡。14年度から20年計画。34年度登記完了〈長生村〉27k㎡。14年度から10年計画。24年度登記完了〈一宮町〉23k㎡。1979年度に完了
【地籍調査早期完成のポイント】
○官民業一体の事業。地域貢献のできる事業。時代や政権与党に影響されない
○地元業者中心の仕事。地元の中心の測量会社と土地家屋調査士の複数業者の連携で行う
○先進企業との連携も不可欠(登記所に送付するまでが地籍調査。精通した企業は不可欠)
○署名活動による啓発の重要性=国民のためになる仕事
○環境(大規模・共同作業)にあった地籍管理システムを活用する
○地籍調査は緊急的な事業であること(短期間で完成させる)
○財政難でもできる仕事。市町村の負担はごくわずか。市町村の最終負担は5%。1haで1万5000円、1000㎡で1500円〈条件〉精度区分甲3不整形地農地で1筆1000㎡。特別交付税80%を含む
○大規模かつ安定的に受注できる環境を構築する
○仕事を大きくすれば長期的経営計画ができる
○官・民・業で牽引するリーダーが重要
○年間の事業費=参加する班数×2500万円以上が理想
○熟練しなければ採算性が厳しい⇒1年目は経験、2~3年目で採算性を確保⇒専門性が高い仕事
○通年事業として取り組む覚悟が必要⇒一地区の事業期間(着手から登記まで)が2年~4年要する
【測量士と土地家屋調査士の役割】
○境界の確認と特定と確定の違い⇒地籍調査は確認行為
○登記と地籍調査に精通している技術者がいること
○法務局と協議ができる人(提案実績のある人・できれば土地家屋調査士)が必要
○資格が仕事をするのではなく人が仕事をする。経験しなければ良い仕事はできない
○地籍調査の技術者別の割合=精通した主任技術者の測量士(5%)、精通した土地家屋調査士(5%)、その他の実績ある技術者(測量士・土地家屋調査士・実績のある補助者)(35%)、経験の浅い技術者(測量士・測量士補・補助者)(35%)、作業員(20%)の仕事。測量士でなければ、土地家屋調査士でなければできない業務はごくわずか
○測量士は、広範囲の用地測量と基準点測量に特化している
○土地家屋調査士は、境界に関する専門家。筆界の特定能力や地積測量図等の分析に優れている
○採算性では測量会社が有利
○地籍調査の遅れは測量士と土地家屋調査士の責任。使命感を持って最優先事業として取り組む
○職域争いしている場合ではない双方一体となって行う事業
○地籍調査は土地の所有者から感謝される仕事=地籍調査は職業奉仕
【今後の課題と提言】
○受注者が参加に消極的⇒地籍調査には最後までやりぬく覚悟が必要
○人材の確保が重要⇒計画的な若年者の採用と職場環境の改善
○事業費の拡大⇒全国的な啓発活動を展開。①都道府県市町村から上がった事業予算を確保する②署名活動で業界のやる気と国民の声を強くアピール③啓発研修会の開催④TⅤ・新聞・メディア等の活用
○不当廉売を防止する対策を講じ、参加企業を増やす
○不採算作業部分の単価アップを行う(一筆地調査の積算基準の見直しを)=一筆地調査の基本は、土地所有者から示される境界を確認するとされており、土地所有者が境界を明確にすることが原則となっている。しかし現状は、立会に欠席する人、境界が不明な人、お互いの主張に違いがあり筆界が決まらない場合、地積測量図と現地が不一致であったりして、解決のために受託者が対応に多くの時間を要しているのが実態。地籍調査は、一筆地調査が一番重要かつ困難であり、熟練を要する部分でもある。現在の歩掛の現状は〈1k㎡/41・0班/日(1000㎡*25筆=2万5000㎡)。技師41・0、技師補41・0、助手82・0人、条件=農地、林地、1k㎡1000筆〉だが、実際の作業は、少なくても2倍以上の労力を費やしており、一番の課題となっている。地籍の進まない最も大きな原因がここにある。「プラス100%」の単価アップが必要。
【業界への提言】
○地籍調査の遅れは、我が業界の責任でもある
○測量士と土地家屋調査士の連携により、使命感を持って地籍調査の早期完成を目指し、地域に貢献する
香取郡市地籍調査出前講座出席者
〈測量関係〉青谷久宣(㈲朝日建設コンサルタント)▽渡邊英紀(㈱エポック)▽佐藤 潔(㈱佐藤測量)▽安里光雄(新日本測量設計㈱)▽片野正彦(㈱新葉測量)▽笹川 孝㈱総合開発)▽小池 毅(高木測量㈱)▽川崎敦司(銚子測量㈱)▽伊藤謙治(㈲東総測量設計社)▽神田辰生(㈱トーケン)▽平良茂浩(成田測量㈱)▽小倉 満(富士測量㈱)▽稲生治雄(㈱みらい)▽伊藤信一(北千葉測量㈱)▽藤田寛一(㈱みすぎ測量設計)▽山邉哲郎(アトラス測地㈱)▽日下部正男(㈲日下部測量)▽保科幸治(保科測量事務所)〈土地家屋調査士関係〉伊藤嘉伸▽大崎 学▽篠塚章太郎▽高橋宏明▽寺田好一▽所 一視▽藤崎修一▽平山保幸▽齋藤孝保▽坂井満仁▽内田英樹▽石井静雄▽鎌形義孝〈委員会関係〉小安隆夫(委員長)▽石塚 修(総務企画部会長)▽片野正彦(同副部会長)▽大岩英夫(技術部会長)▽小池 毅(同副部会長)
※「香取市地籍調査事業計画」(案)は、千葉県地籍調査推進委員会によるシミュレーションに基づくものであり、香取市が作成したものではありません。