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(社)埼玉県建設業協会

埼建協の中原誠SDGs委員会委員長インタビュー

2020/03/18 埼玉建設新聞

 埼玉県建設業協会は伊田登喜三郎会長の肝いりで今年度にSDGs(持続可能な開発目標)委員会を設置した。中原誠委員長はSDGsの取り組みについて「資格認可や登録といったものではない」と明言。ポスターやバッジといった従来の普及方法とは違うやり方で広げる必要性を強調。またこれまでに開いた3回の会合を通じて、建設業が抱えている課題とSDGsとを融合させたテーマとして「災害対応」と「人材育成」が挙がっていることを明らかにした。さらに「問題解決型」の検討も深めているという。例えば「貧困をなくそう」といった建設業とは直結しないSDGsの目標についても、取り上げて発信することに意義を見出す。「テーマを限定しないで情報を集めて、何ができるかを考えるサイクル自体を事業にする」構想だ。これまでの建設業協会にはない幅広い社会活動につながる可能性が出てきた。




―委員会の活動状況について


中原 SDGs委員会のメンバーは、通常の委員会とは違い希望者を募って編成されました。意欲のある12人で構成されているので、これまでに開いた3回の会合はどれも有意義な内容でした。まず昨年10月に開いた第1回委員会では、メンバー間でまず必要最低限の認識を共有することを目的として、熱心にSDGsの活動をしている外部の方を招き講演していただきました。

 翌11月に開いた第2回委員会は方向性を見出すための時間を多く取りました。あらかじめ各委員に情報を集めてもらった上で、建設業協会としてどういった活動をしていけば良いのかについて話し合いました。そして2月に開いた3回目の会合では、いくつかのポイントを絞り込みました。


―ポイントを具体的にいうと


中原 まず協会主体のSDGsと、会員企業を主体としたSDGsとは区別しなければいけないということです。例えば建設現場で環境負荷の低い材料を使おうという運動があった場合、協会から使用を促すアプローチはしても、実際に決めて使うのは各社の現場です。協会としては、使ってもらおうとアプローチすることが活動になります。一方、会員企業の立場からすると、その材料を使うことがSDGsにつながります。このケースで考えると、協会としては呼び掛けることが事業になります。このように建設業協会を主体にしたSDGsにターゲットを絞って検討しています。

 2点目のポイントは、例えばISOなどのように、資格を認可したり登録したりというものではないということです。この点が実は肝になってきます。会員企業にSDGsの取り組みを広めようとした場合、何をもって取り組んでいるかを判断するべきかが課題になってきます。

 会員企業の約400社に、できるだけ多く取り組んでもらおうとした場合、やっているかどうかの線をどこに引くか。ただポスターを貼っている、バッジを付けているといったレベルの話では駄目だと考えています。

 これから行政がどう動くかはわかりません。発注者が入札参加の条件にしたり総合評価方式で加点したりという動きになれば会員企業に広まるでしょうが、SDGsはそういったものではない、それでは意味がないというのが、委員会メンバーの総意です。

 3点目のポイントは、上辺だけSDGsをやっているという状況には陥らないようにしたいということです。一見すると取り組んでいるように見えることを指す「SDGsウォッシュ」という言葉が最近、出てきました。「SDGsウォッシュ」といわれているようなものにはしたくないということです。


―そのほか検討の方向性は


 中原 既に協会で取り組んでいる事業が、SDGsの17のゴールのどこにつながっているのかという仕分けを行いました。例えば技術発表会は17のゴールのうち、4(質の高い教育をみんなに)と9(産業と技術革新の基盤をつくろう)につながるのではないかと、落とし込んで整理したところです。その上で3回目の委員会では、一人一人に意見をもらいました。例えば「会員企業向けにSDGsの勉強会を開いたらどうか」「協会だよりなど、会員の広報ツールにSDGsのどのゴールと、各事業がつながっているのかの表示を盛り込んで、認知してもらったらどうか」といった声がありました。

 そのほかに、業界として昨年の台風19号を踏まえて災害対応をさらにブラッシュアップしていかなければという流れになっていますので、災害対策に対するアプローチにクローズアップして、SDGsとの関係で事業をしたらどうかという意見も出ました。災害対策を、協会がこれから取り組んでいくSDGsの柱にしたらどうかという考え方です。

 また人材育成のテーマから、会員企業が直面している人材不足を解消していくために、建設業界に入ってきてくれる人が勉強することを奨学金のような形でサポートする制度を構築したらどうかという意見も挙がりました。経営の後継者問題も視野に入れて、もっと裾野を広く人を育てていく支援を協会ができないかということです。SDGsでは、貧困の問題で勉強する機会が恵まれない子どもに対する就業支援なども掲げられています。そういった面にまでターゲットを広げて協会がサポートできないかと考えています。

 災害対応と人材育成は、建設業の問題とSDGsを融合させたテーマ設定といえますが、そうではない切り口の問題にも目を向けたらどうかという意見も出ています。例えば埼玉県内でも身近にあるはずの貧困問題に対する生活支援や、児童虐待などをテーマに取り上げて、協会として発信する。発信することによって、協力する企業が出てくるかもしれません。

 テーマを特に限定しないで、支援を求めている人の情報を協会の委員会が集めて、そこから何かができるかを考えるサイクル自体を事業にしたらどうかということです。


 ―今後の展望などは


 中原 つい最近、私自身で、各委員の意見がSDGsのゴールのどこにつながっているのかを調べてみました。SDGsは17の目標の下には169のターゲットが位置付けられています。各意見が17のフィルターを通して、169のどこに該当するのかを精査したところです。それらを踏まえて、4月に開かれる協会の理事会で活動報告をさせていただきます。これまでの議論が良いかどうかを判断していただくつもりです。SDGsは2030年までのゴールを示したものですが、そこを意識しつつ、まず2年間で何をすべきかを考えなければいけないと思っています。



【SDGs委員会委員】(敬称略)

 ▽中原誠(中原建設)▽石井巌一(昭和建設興業)▽千代達也(千代本興業)▽富田俊介(とだか建設)▽楢崎亘(伊田テクノス)▽真下敏明(真下建設)▽水久保幸之助(五島工業)▽矢島崇行(矢島工務店)▽吉川祐介(金杉建設)▽北清太郎(シン建工業)▽宇津城美奈子(柏木建設)▽小川智右(小川工業)

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