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【暑中号】食に見る「建設業」と「人」「地域」の繋がり

2020/07/27 埼玉建設新聞

 人が生きる上で「食」の恩恵は計り知れない。栄養が体を育てるだけでなく、例えば、美味しいものを一口食べたら蓄積したストレスも緩めてくれる。こうした食の奥深さに、地域建設業者の多くが実は精通している。建設工事でさまざまな現場を渡り、地元のグルメに明るい業界人たち。取材してみると、食の好みで共通点も浮かび上がった。地域の安全・安心を支える建設業ならでは食のエピソードも。働き盛りの業界人は日ごろどんな味に親み、どんな思い出を秘めているのか――。


【ダンゼン人気の麺類】


 まず人気なのは麺類。手軽に食べられて種類が豊富。安くてボリューム満点のメニューも多く、体が資本の建設現場では、必ずと言っていいほど愛される食事だ。

 「ラーメンは大学時代からの好物。色々な場所へ食べに行くのが楽しみ」

 そう答えてくれたのは、行田市内に本社を構える建設会社の男性従業員。仕事柄、県外の現場を任される機会もあり、有名店の情報は常にアップデートされている。

 「現場配置になったときは、その土地のラーメン屋を調べては休日に訪れている」という。土木関係の施工管理に神経を注いだ後は、ラーメンのカロリーで疲れた体にスタミナを注入しているのだ。

 最近のお薦めは、深谷市内にある「麺屋くおん」。魚介豚骨スープのつけ麺がお気に入りで、息子も大好きな味だという。「魚介の旨味がしっかり効いたスープが太めの麺とよく絡み、最高」と、通い詰める理由を強調する。

 麺類の人気では、日本そばもラーメンに負けていない。

 忙しい仕事の合間、昼食を手早く済まようと立ち食いそばなどの利用者が多いのは建設業も同じ。一方、ラーメンと比べ、そばにはヘルシーな印象もあり、健康の観点から好んで食べるビジネスマンも少なくない。

 「栄養バランスは麺類の中でも良さそう」

 川口市内に勤務する営業事務の担当者は、そばが好物な理由をこう挙げる。定番のざるそばに加え、季節や気分によって月見、とろろ、天ぷらといった味のバリエーションを楽しめるのも魅力の一つのようだ。

 地域密着の建設業者はおしゃれなグルメの情報にも自然と精通してくる。ある県内企業の広報担当者は、小学校からの同級生がオーナシェフとして腕を振るう飲食店を推薦する。

 深谷市内にある「カフェダイニング プリエ」。お薦めのメニューに、ガパオ炒めご飯やトマトクリームスパゲティ、ナシゴレンを挙げ、同店での思い出をやや熱っぽく明かしてれた。

 「ガパオ炒めは、粗めのひき肉と野菜の味付けが絶妙で、半熟の目玉焼きと絡めたらとてもおいしい。国土交通省の工事現場を担当していたときは訪れる機会も少なかったのですが、本社勤務となった昨年9月から利用が増え、同僚とのランチでは『プリエ』がよくリクエストされます」

 食にまつわる建設業の穏やかなエピソードは、このほかにも数知れない。


【思い出は貴重な財産】


 建設業に長年勤めていると、人とのつながりは自然と多方面に広がっていく。そうした縁が「食」の思い出を交えて一段と強まることもある。

 2015年に起きた関東・東北豪雨。鬼怒川が破堤した茨城県常総市内で、堤防整備工事に従事したある男性の胸には、一つのエピソードが刻まれている。

 被災地の早期復興に尽力する傍ら、たまたま見つけたという一軒の店舗。張芝で長年付き合いのある親方から、よく差し入れでもらっていた鳥の丸焼きを出す店「クロサワ」だった。

 その店の売りは、肉の味を引き立たせる抜群の醤油風味。匂いを感じたら、親方の顔まで思い出し元気が湧いてきた。

 災害関連の現場では、家や家族を失った被災者たちを目の前にして、心を痛める建設業関係者が少なくない。こうした中、懐かしい味がささやかな心のゆとりを生み、与えられた職務に専念することできた。

 11年の東日本大震災では東北地方に次いで、関東圏も大きな被害を受けた。営業担当のある男性は、茨城県から避難してきた1人と仕事を通じて仲良くなったという。

 その知り合いに「おいしいから」と教えてもらったのが、「好梅亭」(茨城県大洗町)の手焼き煎餅。サラダ味が特に好みで、一口食べれば、今でも当時の記憶が蘇る。「人気があって、なかなか購入できないのが残念なところ」。その分、思い出はほかに変えられない貴重な財産となっている。


【時にはちょっと贅沢に】


 時には頑張った自分へのご褒美として、ランチやディナーを奮発したい日もあるのが人情。

 ある県内企業で働く土木施工管理の担当者は、特別な食べ物にウナギを挙げる。「若手だった当時、工事完成の打ち上げで先輩社員に連れて行ってもらった店のウナギがとても美味しく、現場の苦労が報われた気がした」

 以来、現場の節目節目にウナギを食べるのが習慣になったという。今では「おごられる立場から後輩におごる立場になっています」

 川口市内に本社を置くある建設会社の従業員は、アンケートでお薦めのステーキハウスを教えてくれた。味をリポートするため、川口在住の本紙記者が実際に行ってみた。

 JR川口駅から徒歩約10分の距離にあるステーキハウス「やるじゃん」。「職場の先輩に和牛の高いステーキをごちそうになった」という同店で、同じく和牛のサーロインを注文した。

 まずは前菜のサラダやコーンポタージュで舌鼓。その後出てきた和牛ステーキは表面がこんがりと焼け、食欲をそそる。焼き具合はミディアム。一口食べたら、肉の旨味と脂の甘味が口の中で調和し、幸せな気分に。

 「高くて自分では行けないので、また連れて行ってほしいです」。思わず先輩にこう催促してしまう理由がよく分かった。

万人に人気のラーメン。香り立つスープと麺が働く人の食欲を湧かす テイクアウトした弁当でランチを取る面々。同僚とのコミュニケーションを深める貴重な時間 決壊した鬼怒川堤防の復旧現場(16年3月撮影)。官民挙げた復興事業には多くのエピソードが詰まっている 記者が食した和牛ステーキ。明日の活力になるのは間違いない

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