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健全な建設業の堅持を/野澤英之助県土木部長インタビュー

2008/04/24 新潟建設新聞

 4月1日付けで就任した野澤英之助・県土木部長にインタビューを行い、これからの土木行政のあり方や建設業に対する想い、今後の抱負等を伺った。「防災がライフワーク」という野澤部長は、これまでに直面した大規模な災害を踏まえ「県民を自然災害により死なせてはならない」という思いが強く、ハード対策だけでなく、ソフト対策の重要性を強調する。また、建設産業は、農林水産業、観光業と並ぶ地域の3本柱であり、『持続可能な健全な建設業の堅持』に向け、サポートしていく考えを示した。

■「防災がライフワーク」■

 野澤部長は、今年で県庁入庁から35年目に入ったが、平成17・18年度と砂防課長を務めるなど、約3分の1(11年)を砂防課で過ごした。

 「なぜ砂防にこだわるかと言えば、昭和59年度と60年度の砂防課時代に2つの災害(2・15玉ノ木地滑り、1・26柵口雪崩)を経験したから。被災直後に現地に入り、『絶対に県民を死なせてはならない』という思いを強くして以来、防災にこだわっており、『防災がライフワーク』を信条にしている」と語る。

 また「安心して安全に暮らせることが『幸せ』の根本であると信じているが、公共事業費が右肩下がりの中、ハード対策だけで生命・財産を守るには限界があり、ソフト対策が大切。とにかく逃げることが大事だと思っている。そのためにも県と市町村が連携しながら、事前の避難や交通規制を行うことが必要になる」との考えを示す。

■目立たない土木部■

 野澤部長は目立たない土木部が理想であるという。その理由を問うと「社会基盤を示すインフラストラクチャーのインフラの意味は、目に見えないということで、土木が目立つということは『県民が不幸な目に遭っている』ということ。私の理想は目立たない土木部で、平穏無事であって欲しいと願っている」と話す。

 ただし新潟県では災害が多発する。「新潟県は豪雪地帯であり、急峻な地形を持ち、全国一の地すべり地帯であるなど災害を受けやすい県であるが、災害が発生したとしても、いかに被害を少なくするかが大事なことだと思う」とした。

■建設から維持管理へ■

 3月まで道路管理課長だった野澤部長は、県管理橋梁の「長寿命化修繕計画」の作成を進めていた。そのため「これからは建設から維持管理へのシフトが大事。特に橋梁に関しては、アメリカの橋梁落下の例を見るまでもなく、既存施設をいかに長く持たせるかが必要で、損傷が軽微な段階での予防的保全という対応へと方針転換する必要がある」と強調する。

 橋梁の維持管理には市町村との連携が必要不可欠となる。野澤部長は「ネットワークを考えた時、国・県道だけでなく、補完する市町村道が必要。県では緊急輸送道路を最優先に対策を進めていくが、市町村に対しても県道を補完するものについて、優先的に耐震化を含めた長寿命化を進める必要がある」とする。

■災害時に建設業は最強■

 公共投資の削減やダンピング受注問題など、建設業を取り巻く環境は厳しさを増している。野澤部長は「建設産業は、農林水産業、観光業と並ぶ地域の3本柱と理解している。特に中山間地域に行けば行くほど、その柱は太くなる。除雪や緊急時のパトロールなど地域を支える上で本当に頼りになる組織であり、災害時には『共助』『公助』を担う最強の組織ではないかと思う」と説明。

 今年度の入札制度改正では、下請けへのしわ寄せ防止、労務単価向上による一層の品質確保と地元企業の受注機会の拡大に向け、最低制限価格や低入札調査基準価格の引き上げ、総合評価方式の見直し等を行う。

 「入札制度改革の根底に流れる思いは、『持続可能な健全な建設業の堅持』。何でも安ければ良いというものではない」としながら「より地域に精通した優良な企業には受注機会を増やせるようにしたい」と述べ、現在、市長会や町村会を通じて県の取組みを市町村へ紹介するなど、持続可能な建設業に向けた県全体としての取組みを進めている、とした。

 また、全国知事会が進める(他地域からも参加できる)一般競争入札に関しては「下請けにも地元が入れないのでは地域の経済は潤わない。ストック効果があってもフロー効果が全然ない仕組みは、やってはならないと思っている」と力を込めた。

■必要な道路整備を■

 道路特定財源の暫定税率廃止は県内各地で影響が出始めている。また、道路特定財源を一般財源化しようとする流れもあるなど、先が見えない状況が続いている。

 野澤部長は「新潟県でも不安を訴える声が届きはじめている。必要な道路というものがあり、これからもきちんと整備していく必要がある」とした上で、「いつか自分のところの道路が良くなると信じて、ずっと税金を払い続けてきた人もいる。それなのに、今になって8割・9割良くなっているので、もういいんじゃないか、という考えは違うと思う。例えば仮設住宅に住んでおられる人が、8割・9割出て行ったので、仮設住宅を撤去するかといえば、それは絶対にない。やはり最後の一人まで支援する。必要なものについては、きちんと手当てをしていくシステムは、これからも残していくべき」と述べる。

 一般財源化についても異を唱え、「一般財源化は内部矛盾だと思う。目的税でやっている以上、それに対応するような使途でなければならない。取りやすいところから取って一般財源化するというのは、目的税の意味からすると筋違い」と強調。また「(結果として)一般財源化するかもしれないが、そうなっても道路に対する手当てを行うのが筋」との考えを示した。

■次代の担い手づくりを■

 近年、相次いで大規模災害に見舞われている新潟県。野澤部長によると、災害を担当する部署へ異動を希望する職員が増えているという。

 「私自身、阪神大震災の直後に応援に入った時の鮮烈な印象が今でも残っている。それもあって、若い職員には現場を絶対に見ておけと言う。土木の本当のベースは災害対応。一番大切なことは人に知られないところで活躍すること」と話す。

 しかし「平成16年と20年とで比べると、土木部の技術者数が約90人減っている。事業量は減っていても、地元との合意形成の方法が変わるなど、職員の作業量は変わっていない」とし、「若い人達が忙しい中にあってもモチベーションを高く持って仕事をやっていける環境づくりが私の責務」と意欲を見せる。

 昨年の中越沖地震、2月の冬季風浪など、新潟県では、いつ、どこで、どの様な災害が発生するか分からない。安全・安心な県土を守るために何をするべきなのか―。課題は山積するが、「目立たない土木部」の実現に向けて、防災をライフワークとする野澤部長の手腕に期待が掛かる。

【略歴】

のざわ・えいのすけ

昭和26年2月22日生まれの57歳。出身は新潟市で、法政大学工学部土木工学科卒業後、昭和49年に新潟県庁入庁。以来、主に砂防畑を歩み、平成16年4月に村上地域整備部長、同17年4月に砂防課長、同19年4月からの道路管理課長を経て、現職に。外に居ることが好きで、散歩やハイキングなどが趣味。海の近くに住んでいることもあり、時間があれば海釣りも楽しむという。


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