国土交通省利根川ダム統合管理事務所は、吾妻川上流総合開発事業を進めており、実証実験プラントによる中和方法の検証の結果、中和処理方法としては単段殿物折り返し中和法が最適な処理方法と決定した。今後は、水質調査など各種検討をさらに進め、22年度以降にプラント工事の設計、施工に取り組んでいく。同事業は、現在品木ダム水質管理所で行っている中和事業をさらに拡大していくために実施しているもので、湯川と遅井川に計2基の中和処理プラントを建設するもの。
吾妻川は、酸性河川の流入によりコンクリート工作物の築造が不可能であったり、魚類が生息できないなど「死の川」と呼ばれていたが、品木ダムによる中和処理が始まってからは水質が大きく改善された。しかし、依然として上流に鉱山跡地などを抱える万座川、遅井川はpH3程度と強酸性のまま。品木ダムで中和を行っているため吾妻川全体での水質完全は図れているが、それでも低いところではpH4・9や5・7など弱酸性を示しており、また利根川本川への影響もあり、吾妻川との合流前の利根川本川のpHは7・4だが、合流後は6前後の値を示している。
また、品木ダムへは毎年5万5000立方mの堆積物が流入し、そのうち2万6000立方mについては毎年、しゅんせつ作業を行っているが、現在すでに貯水池はほぼ満砂状態となっている。さらに、しゅんせつした中和生成物は、脱水処理後、流域内の土捨場に盛土処分されているが、3カ所ある土捨場のうち2カ所はすでに満杯状態で、さらに新規土捨場の建設については周辺に国立公園があるなど地形的、社会的条件から困難となっている。現在は、延命措置の取り組みとして貯砂ダムの建設を行っている。
これらのことから、中和事業を拡大しながら品木ダムの延命を図るために、吾妻川上流総合開発事業が計画され、当初は品木ダムのかさ上げ、また万座川へ万座ダムの新設が検討されてきたが、その後の調査で、品木ダムのかさ上げはダムサイト右岸側の地質上の問題から技術的に困難で、万座ダムについても地質上の問題から大規模ダムの建設は困難と分かった。
以上のような課題、現状を踏まえ、新たに中和処理プラントを設け、中和事業を進めていく方向性での検討がスタートした。平成18年度には、実証実験用のプラントが建設され、同地区での適切な中和処理法の検討を行うため各種実験などが進められ、これまでに単段殿物折り返し中和法が最も最適であると結論づけた。
プラント方式の長所は、現在の品木ダムでの中和処理に比べ粒径の細かな中和剤を使用することで反応効率が増し効率化が図れる点。中和剤の使用量は約15%削減でき、また中和生成物量を約35%抑制できる点。これにより、天然素材の消費を抑え環境負荷を低減し、さらに品木ダムの延命化、しゅんせつコストの削減も期待できる。
処理プラントは、品木ダム上流の湯川に1基と遅井川に1基の計2基の建設を予定している。今後は、22年度末までに水理・水質調査を進めるとともに、施設計画などを進め、22年度以降に具体的な設計、工事に取りかかっていく。