近年のシックハウス症候群を始めとする室内空気質による健康影響への関心の高まりを受け、厚生労働省健康局生活衛生課では、有識者からなる「室内空気質健康影響研究会」(座長・宮本昭正財団法人日本アレルギー協会理事長)を15年5月から10月までの3回にわたり開催し、室内空気質の健康影響について、厚生労働科学研究などを通じてこれまでに得られた医学的知見から整理、その報告書をまとめた。
研究会のメンバーは、主として「シックハウス症候群」と「多種化学物質過敏状態(MCS)/化学物質過敏症」の2つの論点について議論。医学的知見からのシックハウス症候群を「問題のある住宅において見られる健康障害の総称」と位置付け、また使用する住宅建材を「室内での化学物質の濃度が指針値を超過していることだけで、症状誘発の原因と判断することは必ずしも適当ではなく、症状誘発の関連因子を特定するためには、慎重で適切な臨床診断に基づく総合的な検討が必要である」としている。
【シックハウス症候群について】
◎健康障害の総称としてのシックハウス症候群
これまでの用語の使用実態に鑑みると、シックハウス症候群は医学的に確立した単一の疾病というよりも「居住者の健康を維持するという観点から問題のある住宅において見られる健康障害の総称」を意味する用語と見なすことが妥当。
これまでに得られた知見によれば、<1>皮膚や眼、咽頭、気道などの皮膚・粘膜刺激症状及び<2>全身倦怠感、めまい、頭痛・頭重などの不定愁訴などが訴えの多い症状であることが示されている。その原因については、化学物質等居住環境における様々な環境因子への暴露が指摘されているが、全てが解明されるに至っていない。
◎発症関連因子としての化学物質
シックハウス症候群の主な発症関連因子として、建材や内装材などから放散されるホルムアルデヒドや、トルエンをはじめとする揮発性有機化合物がこれまで指摘されている。室内環境中には、ホルムアルデヒドをはじめとして、高濃度での暴露を受けた場合に、粘膜刺激症状などの健康障害を引き起こすことがある化学物質や、トルエンなどの有機溶剤のように、高濃度での暴露を受けた場合に、頭痛やめまい、さらには意識障害といった中枢神経障害を来すことがある化学物質が存在する。
なかでも、ホルムアルデヒドについては、0・08ppmという建築物衛生関係法令上の基準値が定められている。これは、環境衛生上良好な状態を維持するという観点から定められた基準で、皮膚や粘膜に障害のない者については当該基準値をわずかに上回った濃度の暴露を受けたとしても直ちに影響が生じることはないと考えられる。
しかし、アトピー性皮膚炎や気管支喘息をはじめとするアレルギー関連疾患の既往等があり、皮膚・粘膜の防御機能に障害がある者は、当該基準値を上回る濃度での暴露が持続した場合、皮膚や粘膜の症状が増悪するおそれがある値でもある。
また、防蟻剤として使用されてきたクロルピリホスについては、これを使用するシロアリ駆除従事者への健康影響を示唆する報告がなされており、気密性の高い住宅でこれを使用し比較的高濃度での暴露が持続した場合、特に感受性の高い居住者に健康影響が生じる可能性は否定できない。
従って、建築基準法関連法令の改正により、建材としてのホルムアルデヒドの使用が規制されるとともに、クロルピリホスの使用が禁止されたことは、これらの物質による健康障害の発生を防止する上で適切かつ重要な規制的措置であると考えられる(次週に続く)。