警察庁のまとめによると2010年の1年間に発生した交通事故は72万5773件。過去最悪を記録した04年(約95万件)から6年連続で減少している。死者数も10年連続の減少だが、それでも4863人が命を落としている。負傷者にいたっては約90万人という数字だ。スピード超過や信号無視、飲酒運転などの道路交通法違反による事故も多いが、一方では道路や交差点の形状でスピードが出しやすい、信号が見づらい、見通しが悪いといった理由による事故も見逃せない。改良工事によって事故件数を減らせるなら、人々の安全を確保するためにも早急に実施すべきだろう。
◎信号のない交差点で19万件発生
事故発生件数は、地域によって大きな差がある。関東甲信越で見ると、茨城県1万6246件、栃木県1万53件、群馬県1万9080件、埼玉県3万9581件、千葉県2万5914件、東京都5万5014件、神奈川県4万1815件、新潟県1万11件、山梨県6283件、長野県1万743件という状況。各都県とも前年比で2~6%マイナスだが、埼玉県のみ2・3%増だった。
死者数を全国で見ると、200人を超えているのは北海道215人、東京都215人、茨城県205人、大阪府201人の4地区のみ。以下、埼玉県198人、愛知県197人と続く。
事故の数は確かに減っている。しかし下げ幅は小さく、最近は「下げ止まり」という状況にある。まだまだ多くの人が交通事故で命を落としているのが現状であり、対策を講ずる必要はあるだろう。
事故はどこで起きているのか。警察庁のまとめによると、事故全体のうち55%(約40万件)は交差点(交差点付近を含む)で発生している。このうち信号機のない交差点での事故は約19万件。この中には、信号を設置していれば防げた事故があったかもしれない。また全体のうち41%(約30万件)は単路(カーブやトンネルを含む)で起きている。道路の構造上スピードが出しやすい状態ならば、それを抑制する改良工事も行っていくべきだ。こうした小さな対策の積み重ねが事故減少につながるとするならば、行政による交通安全施設の整備はさらに急務だろう。
幹線道路(国道、主要地方道、県道)と生活道路(市町村道、農道、私道)で比較すると、事故発生件数はともに約36万件で半々という数字だ。ただし幹線道路は、道路延長で約15%しか占めていない。残り85%は生活道路である。幹線道路は、道路延長が短い割には事故件数が多く死者数も3分の2を占めている。幹線道路への対策は、そのまま死者数の大幅な減少につながる。一方、生活道路にも対策を行えば、件数も大きく減少すると見込まれる。
◎幹線道路は改良で3割抑制
信号が青になると同時に、直進する車が次々と大きな排気音で飛び出していく。公道で競争するシグナルグランプリの様相が、信号が変わるたびに繰り返される。首相公邸の南側にある、東京・赤坂の溜池交差点。ともに片側3車線の六本木通りと外堀通りが交差する大型の交差点だ。交通事故は2010年の1年間で20件発生し、東京都内で1番多い。事故防止のためだろうか、取材に訪れた日は交通整理で警察官が立ち、警笛で走行・停止を誘導していた。
この交差点が他の多くの交差点と異なるのは左折部分である。左折車は前方の信号に関わらず専用レーンから曲がっていくことができる構造だ。流入する本線ではこの左折車と、交差点を通過してきた直進車あるいは右折車が先を争う格好となる。当然、衝突の危険がある。
左折専用レーンの途中には横断歩道がある。左折専用レーンに入ってきた車は、歩行者の姿を確認して急ブレーキを踏む。その挙動に反応して、後続車も同じく急ブレーキで止まっていた。この場所における追突も多く発生している。
路線別では六本木通りと外堀通りの事故件数はともに年間200件超もあるが、多い順20位以内にも入らない。都内1位の環7通りは年間1415件、続く国道20号は1069件、環8通りは1038件という状況だ。
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幹線道路における交通事故防止対策はどうなっているのだろうか。国土交通省と警察庁は、死傷事故が多発する地点3396カ所について「事故危険箇所」と指定、事故件数を12年までに3割抑制する目標を掲げた。
「事故危険箇所」における対策としては、都道府県の公安委員会と道路管理者が連携して対策工事を実施。道路改良では▽右折レーン延伸による追突防止▽歩道整備▽左折導流路半径縮小による速度抑制▽中央帯設置による対向車線への逸走防止―を実施。交通安全施設の設置では▽防護柵の設置による道路外への逸走防止▽交差点内の導流標示設置による右折車の走行ライン明確化▽LED表示板による追突注意などの注意喚起標示設置▽カーブにおける視線誘導標で車線逸脱を防止―が行われている。
対策の効果は出ているのだろうか。現在指定している箇所は11年度末までに事業を行うこととなっており、国土交通省では、現段階では進捗状況を整理していない。ただし前回(03~07年度)に指定を行った3956カ所については結果が出ている。前回は、指定箇所のうち83%を計画期間内に対策工事を完了。この結果、対策完了箇所において事故件数が約3割抑止されたという。今回の指定箇所においても同様の結果が得られることを期待したいところだ。
◎進まない生活道路の安全工事
2006年9月25日、埼玉県川口市の市道を歩いていた保育園児の列に脇見運転の車が突っ込んだ。園児4人が死亡、17人が重軽傷。歩道のない道路での大惨事だった。
この事故を機に、川口市は警察署と連携して生活道路の交通事故防止対策を検討。対策の初弾として、住宅密集地区で人口が多く、駅に近いため人通りが多い地区の4路線において自転車専用通行帯を今年3月に設置した。車道の両端に線を引き、幅1・5m程度の自転車専用レーンとしている。歩道がなかった路線においては、路側帯を設置して歩行者空間を確保した。また区域内に最高速度30km規制を設けた。
まだ設置したばかりということもあり、その効果はまだわからないが「住民からの苦情は市にも警察にも届いていない」(川口市交通対策課交通対策係)という。対策が、住民の安心につながっているともいえるだろう。
ただ、この路線を毎日通勤で通るという女性会社員は「以前と比べると安全に通れるようになったが、店舗を利用する車が路側帯に駐車している場合も多い」と話す。安全のためには運転者のマナーも当然ながら必要だ。
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生活道路における交通事故は、全国で年間36万件も発生している。事故防止対策はどうなっているのだろうか。
国土交通省と警察庁は、事故発生率が高く歩行者の安全対策が必要な582地区を「あんしん歩行エリア」に指定。関東甲信越では、茨城県は水戸市赤塚駅前など5地区、栃木県は宇都宮駅西中心地区など9地区、群馬県は高崎駅西口など9地区、埼玉県は所沢市上新井など21地区、千葉県は津田沼駅周辺など16地区、東京都は上野など29地区、神奈川県は藤沢駅など9地区、山梨県は甲府北など3地区、長野県は須坂市など8地区が選定されている。このほか、さいたま市や横浜市、新潟市といった政令指定都市にもエリア指定がある。
同エリアでは「11年までに事故件数を約2割抑制」を目標に、都道府県公安委員会と道路管理者が面的な事故対策を行っている。
対策の内容としては、車の速度を抑制するためのクランク整備やポール設置による道路幅の狭さく、歩道の設置や路肩拡幅による歩行空間確保、エリア外周道路の交通円滑化によるエリア内通過車両の抑制などが行われている。
これらエリアの整備進捗状況も国土交通省では未整理。ただ、前回(03~07年度)指定の796地区のうち、期間内に対策完了したエリアはわずか24%の190地区。他のエリアでは市財政が厳しく事業ができない、住民の合意が得られない―といった理由で対策が進まなかったようだ。一方、完了エリアでは事故を17%抑止できたという。
◎第9次交通計画で事故防止を
交通事故発生件数は年々確実に減少しているものの、現在は下げ止まりの感もある。今後の事故防止対策はどうなるのだろうか。
今年3月、内閣府が第9次交通安全基本計画(2011~15年度)を発表した。同基本計画では、交通事故に関する新しい目標を▽死者数(事故から24時間以内)を15年までに3000人以下とする(10年比で38%減)▽死傷者数を15年までに70万人以下にする(10年比で21・9%減)―と掲げている。
目標達成に向けた施策は基本計画の中に盛り込まれている。
施策として、幹線道路については「事故危険箇所」における信号機の新設・高度化、道路標識の高輝度化、歩道の整備、交差点改良、中央帯の設置、区画線の整備、道路照明の設置などを掲げている。
生活道路においては、交通事故死者数のうち3割が歩行者であることを受け、歩道を積極的に整備すると明示する。「あんしん歩行エリア」を中心に、道路標識の高輝度化、信号灯器のLED化、路側帯の設置・拡幅、バリアフリー対応型信号機の整備、クランク設置による車両速度抑制―などを行うこととしている。通学路では歩道整備や路肩のカラー舗装、防護柵設置を行う。駅や公共施設などでは歩道段差の改善、自転車駐車場整備、歩行者用休憩施設整備を実施。このほか無電柱化も進める。
生活道路における工事は、市道であれば当然ながら市が行う。これまでであれば、国が指定したエリアにおける事業に対しては、市への補助金が下りやすかった。しかし今は、社会資本整備総合交付金として一括されている。このため、国土交通省道路交通安全対策室の吉田敏晴企画専門官は「今後、エリアを指定する意味があるのかを検討しなければならない」と話している。
ただし市町村によっては、自分の地域のどこでどんな事故がどのぐらい発生しているのか、危険地域を把握していない場合があるようだ。「警察とうまく連携している市町村も中にはあるが、全国で見ると連携していない方が多い。連携しているところでも、交通事故のデータすべてが警察から市町村に流れているのではなく、部分的だったりする」(吉田企画専門官)という。こういう状況であるならば、市町村の危険エリアを国が指定することも、現段階ではまだ意味があるのかもしれない。
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国は、事故死者数を18年までに2500人以下にして「世界一安全な道路交通の実現を目指す」という目標を立てている。この目標は、是非とも達成してほしい。そのための道路環境整備にも、より一層力を入れて取り組んでほしいところだ。